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バンドマンに憧れて 第33話 レッツDIY

「東京フリーターブリーダー」の録音にあたり(このアルバムの話から全然前に進まない…)、我々赤い疑惑は自分たちで録音するアマチュア志向を排し、スタジオエンジニアにレコーディングをお願いする、という決断を下した。初めてCDをプレスで作成する、ということ自体に私は興奮が抑えられなかった。これで自分はミュージシャンとして誇っていいんではないか、と愚かなことを考えていた。

自分たちの今後の活動の名刺がわりになるようなものである。そしてCD自主プレスの値段が今よりまだ高く、なおかつCDがまだまだ売れる時代だったので、このレコーディングは一大事であった。制作費はどうするのか?

ライブ活動に調子づいていた当時の赤い疑惑のもとに、インディーとはいえ知らないレーベルからCDを出さないか、というオファーすらあったのである(2件ほどだが…)。しかし、私は「自分の音源は自分のレーベルから出す」というDIYパンク由来の意識が強かったし、こんなことをいっては何だが、あんまりパッとした印象をそのレーベルから受けなかったのでお断りした。

その頃、クラッチの知り合いに音楽業界の人がいて、そういう話をしたら、赤い疑惑ならいろんなオファーが来ますよ、と真顔で言うのだ。見てるもんですよ、案外、と更に畳み掛けてきた。メジャーだって見てますよぉ、とまだ言うのだった。

私は疑り深いので、半信半疑で聞きながらも、どこか興奮していた。最初はインディーでやってたけど、どっかでメジャーに行くパターン? オレが1番憧れてたヤツじゃん。話を聞きながら澄ましていたが、内心ではギョーカイの人が真顔で言うのだから満更でもないのかも…。

しかし、運命とは残酷なもので、その後、現在にいたるまで、赤い疑惑に音源出さないか、と声をかけてきたレーベルはメジャーはおろかインディーでも1つもなかったのである。要するに、このバンド売れるな、っと思わせる何かがその後の赤い疑惑には漂っていなかったのであろう。

逆に言えばその頃の赤い疑惑に一瞬、売れるかも、という原石のような光が見え隠れしてたのかもしれない。何を隠そう、その頃赤い疑惑はあのカクバリズムにも急接近していたのである。

カクバリズムの主宰者、角張渉akaワタルくんとは西荻ハードコアの周辺やレスザンTVの周辺で友達になっていた。彼とは同世代で、大学時代、私がGUTSPOSEをやっていた頃、同じようにfruityやレスザンに憧れていて、彼もsnottyというバンドをやっていた。

我々が初のCD作品を作ろうとしていた頃、彼はバンドは辞めて、世田谷のささやかなオフィスでカクバリズムという音楽レーベルを始めたばかりの頃だった。まさか、その後、そのカクバリズムが日本インディーを代表するレーベルに成長するとは思わなかった。

彼とはお互いに癌を患う親の話(私の母の癌の話は後に譲る)がタイムリーで気を慰めあった。ワタルくんは赤い疑惑を応援もしてくれて、赤い疑惑のCDリリースに関してアレもコレも教えてくれた。

で、一大事だったレコーディングエンジニアも、マスタリングエンジニアもワタルくんに紹介してもらったのである。素人ならまず関わらないCDをプレスする会社や、できたCDを流通させる流通会社(いわゆるディストリビューターというやつね)も教えてくれた。そんなこんなで私はその頃カクバリズムオフィスに何度か足を運んでいたし、カクバリズムのイベントにも何度か出ていた。

レコーディングは都内のスタジオチェーン店舗、リンキーディンクスタジオのレコーディングスタジオを使い、そこに所属していたエンジニアに録ってもらった。それまでのように自分達でマイクを立てたり、録音レベルを調整したり、慎重に録音ボタンを押したりする必要はなくなり、ヘッドホンをつけて演奏し、エンジニアとインカムを使ってやり取りする。その工程は大袈裟じゃなくミュージシャン的自尊心を満たしてくれたが、それだからといって我々の演奏がプロっぽくなる訳ではない。ただ、既にその頃にはプロトゥールスというDTMレコーディングソフトの定番が使用されるようになっていたので、パンチインアウト(ミスった部分だけを録り直して修正する作業)はおろか、ピッチ調整やタイミングのズレ補正などまで、パソコン上でいとも簡単にできるので我々は魂消た。とはいえ、むき出しで下手くそな部分も自分達の持ち味だと自覚していたので過剰な修正はなるべく避け、また、ボーナストラックだけは、自分達のMTRで宅録し、それらを最後にミックスしてもらった。

マスタリングは録音、ミックスが終わった後にボリュームの調整や音圧を上げる作業だが、これは未だによく分からない作業だ。マスタリングはワタルくんから紹介してもらった加瀬さんというエンジニアが担当してくれた。加瀬さんは2ndアルバムのマスタリングまで担当してくれ、赤い疑惑の音を面白がってくれたが2012年に永眠された。

さて、これらのスタジオ費用はなかなかの金額がかかることになっていた。CDプレスの費用を含めると40万近くのお金がかかる計算だった。貯金だけでは足りないので、その頃まで割と頻繁に交流していたイン研(大学時代に私が作ったサークル)の友人に借金した。新卒で社会人になった友人は既にボーナスというものをゲットしているだろうと踏んで掛け合ったらすぐに都合してくれた。その時、「出世払いでいいよ」と彼が言った。冗談だが、私は半ば本気でバンドが売れるだろう、と思っていたので、よし、と気合いが入った(この借金はCDの売上げで割と早い段階で返すことができた)。

録音マスタリングまで終わり、出来上がったデータをプレス業者に送った。海外でプレスすると安いとのことで、出来上がるまでに数週間。プレス数は2000枚! なかなか凄い数だが、ワタルくんのアドバイスでジャケットだけ2000枚刷り、倉庫保管してもらい、CDは1000枚プレス。1000枚売り切れそうになったらCDのみ100枚単位で追加できるとの由。よく分からなかったが、在庫管理というのが住まいを圧迫するという自主制作に付き物の世知辛い問題は、後々になって痛感せざるを得なかった。

CDが出来上がるまでの間、ワタルくんに言われた通り注文書というのを雛形になぞって作った。その頃MACでイラストレーターやフォトショップを手探りで覚えていたので作業は簡単だったが、バンドプロフィールや作品解説をあたかも第3者目線で仕立てていくのはなかなかこそばゆいものがあった。また著名アーティストのコメントも強い宣材になるというので、ECDや漁港の森田釣竿船長、discharming manのエビナさん(当時赤い疑惑を絶賛してくれて、「東京サバンナ」を聴いて、お前たちこれを10年続けたら喰えるようになるよ、と言ってくれたことを私は忘れない)などに推薦文を書いてもらった(その後、自分も他アーティストのコメントを頼まれるようになったりし、そういう経験からコメント書くのもコメント集めも嫌いになった)。

そして遂にCD発売となり、その時我々のことを殊更面白がってくれた当時ディスクユニオン勤務だった竹内ASAくんが、ディスクユニオン各店舗のインストアお囃子ツアーをやろう、と企画してくれた。朝から晩までかけて、ステージ衣装を身につけたまま、東は柏店から、南は横浜店まで、電車移動でディスクユニオン8店舗を回り、各店舗でいつもライブ前に客席で披露するアカペラやラップを織り込んだお囃子をやってはCD発売の宣伝をした。

面白い体験だったが、正直しんどかった。カクバリズムなどとの絡みから、その頃にはバンドマンとして成功するにはただ単純に音楽をやるだけでなく、営業やプロモーションが重要なのだということに気づき始めていた。しかし、その手のことは苦手でないまでも、すごく得意な訳ではないことも自分の性分からまた気づき始めていた。暗中模索の日々はまだまだ続くのだった。
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アクセルの意気地記 第20話 こと子と言葉

喋り始めるとホントにそれまでの幾倍も可愛くなりますよ、と以前同僚に言われたのを、私はまあそうでしょうね、とクールに聞き流し、落ち着いたフリを装っていた。が、いざ、娘が言葉を覚え、そして声に出して発話し始めた時の興奮は、私の想像を軽く越えていた。何とも言われぬ。超絶いとおしい、とでも申そうか…。

感激してるのも束の間、こと子が、単語と単語を結びつけて文章にして声を発するようになるのに大して時間はかからなかった。保育園の影響も大いにあるのだろう。

この発話のメカニズムを分析すると、子どもは大人や周りの子どもの会話に耳をそばだて、どういう状況でどういう言葉や文章が話されているのかを注意深く観察する。そしてまず真似てみて、それが周りの人に理解されたことが分かると味をしめ、それらを覚え、のち応用し始める、という流れをたどっているように見える。

そのように思ったのには、私の(大して熱量のない)英語学習と、そのメカニズムがほとんど同じであると感じたからである。私は外国人が滞在するシェアハウスで物件管理の仕事をしているのだが、日常会話程度の簡単な英語力を求められる。働くのに、厳格な英語力の審査がある訳ではなく、海外旅行に行ったことがあり、ホントに片言でも、とにかく外国人と簡単なコミュニケーションができれば、まあ務まる仕事なのではあるが。

私は大学4年まで英語を学んでいたが、海外旅行に行って、初めて自分が全然英語が話せないことが分かり、ジェスチャーや度胸の重要性を噛み締めたクチだが、この仕事を始めて、以前よりは英語のヒアリングに少しは慣れてきたような気がする。

職場内にも外国人のスタッフが多いので、私はスタッフ同士の英語の会話や、お客さん同士の英語の会話などに耳を傾け、どういうシチュエーションでどういう言葉が使われるのかに耳をそばだてている。全然成長しないなぁ、と思っていたけど、初めて海外旅行に行った時と比べればある程度進歩したような気がするのだ。

そんな私の(不真面目ではあるが)英語の勉強と、こと子の言葉の吸収は、ノウハウがどうも似ている。1歳時の頃にこと子が「よいしょ」という言葉を比較的早い段階で覚えたのは、保育園の先生達がこと子を持ち上げる時によいしょ、よいしょと言ってたからに違いない、と踏んでいる。

よく会ったり、よく話したりする友人や同僚の言葉遣いが、気がついたら移ってしまった、なんてことがあるが、ゼロから言葉を覚える幼児にとっては周りに現れる全ての人が言葉の先生となる。だから保育園の園児や先生、それに私やピーさんが師となる訳だが、1番近くにいるピーさんの影響は当然大きくなっていて、ピーさんと同じイントネーションで、同じセリフをこと子が言ってきたりするのだから、それが可笑しい。

何か許可を求めた時の「うん、いいよ〜」、何かお願いした時の気の抜けた「はーいっ」という返事、私がヘンテコな表情をした時の「そ〜の、か〜おぉ」、などなどである。

言葉の先生になるのは人間だけじゃなくて、今の世代の子たちはインターネットやスマホの影響が計り知れないことは誰も否定しないはずである。ネットもスマホも、こと子は気づいたら大好物になってしまっていて、悲しいかな私もピーも、それぞれのレベルでなるべく見せないように努力をしている。

それでもとにかく便利なので時々見せる。その間に自分のことをやる、といった具合である。

しかし、そのこと子のケータイ(スマホ)への執着といったらなかなか凄いものがある。彼女にとってのケータイはアイフォーンの写真アプリのみなのであるが、1度開いたら1時間くらいは平気で見てる。写真アプリといっても好物は動画で、今まで私やピーさんが撮った動画を際限なく見返しているのだ。

スマホ世代とはよくいったものだが、タッチパネルの使い方などお手の物で、ダブルクリック、上下左右のスワイプ、大人が教えなくてもあっという間に使いこなしていること子がいる。動画を見ながら、私宛てのLINEが入って、小さなポップアップのメッセージが画面上部に表示されるや否や、それを人差し指でもって、スッと上へなぞって画面から消し去った、その所作を初めて見た時は驚いた(スティーブ・ジョブズはとんでもない利器を発明したものだ…)。

スマホやネットの依存はどうかと思う反面、親がそれらに依存している矛盾もあり、そういうものから言葉や社会のことを学べる側面も否めない。もちろん、活字好きの私としては絵本もないがしろにできないと感じているけどね。

何にせよ、自分の子が脳みそをフル回転させながら喋ったり、喋ろうとしたりする姿、そしてそのあどけない声色とたどたどしさ、それらは全てがいとおしいくくるおしい。

例えば、さっき帰宅した時、まだ靴も脱ぎ切らないで玄関に立っている私に、こと子は「あのね」と言ったのだが、うん、と相槌を打ったら、あのね(うん)…、スヌーピーのね(うん)、リュックにね(うん)、ハンバーグ入ってるの、とどっか明後日の方角を向いて一生懸命に言葉を探しては呟いた。そうなの? と、私は驚いて、そういえば昨日そのリュックの中にこと子と膨らんだ風船をいれたことを思い出し、はて、こと子は風船のことをハンバーグと言ってるのだろうか、と案じながらこと子のスヌーピーのリュックを鴨居から外して中を広げてみたら、昨日膨らんでいた風船が1/3ほどに縮んでいた。

また、さっきは遅い夕飯を食べている私のところに、プラスチック製の腕輪を右手と左手にぶら下げてやってきて、「どっちがいい?」と聞いてくるのである。左手のはオレンジで、右手のピンクのより一回り大きい。私は大人だし男だから左手のオレンジを指差し、こっちがいいな、と返答した。するとこと子はなんとしたものか、右手のピンクのを私の方に少し差し出して、「こっち?」と問いかけるのである。(いやいや)と私は鼻を鳴らし、「トトはこっちがいいな(私はトトと呼ばれている)」ともう1度オレンジの方を、今度は手に持って触ってみると、こと子は、そんなことは聞こえない風な顔をして、「こっち?…こっち?」と、またピンクの方を私に差し出してくるのであった。

と、まあ、こんな感じでこと子との会話は、毎度腹の底から可笑しくなったり、いとおしくなったりするのである。

私は子供を持つまで、この、「いとおしい」というのが、どういう感情なのか分からなかったが、子どもに対して湧き上がってくる感情は、当然今まで体験したことのないもので、「いとおしい」というのはこういう感覚なのかもしれない、と気づいた。覚えたての言葉を1語1語一生懸命喋る子どもの姿はホントにいとおしいものである。
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