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ロックスターは悪魔だろうか

オレはロックスターというものに憧れていた。中学生の時、九段下の武道館で人生初となるロックのギグを観に行ってからのことだ。その時はどちらかというと仲良しだった西ヤンが主導してオレを誘ってくれたようなカタチだったが、結果オレはすっかりロックのギグにヤラレてしまったのだった。

それでオレはバンドマンになることを決意した。オレは学校の成績というのが割合優秀だったようだが、勉強ができたところで何だかもの足りず、何か自分を表現できることを探していたのかもしれなかった。死んだ母親によく言われたように、オレは決めたことを曲げないガンコなガキだった。バンドマンになると決めたからにはなるしかなかった。

最初のうち母はオレの夢を小バカにして相手にしていなかった。身の程知らず、と思っていたようだ。オレもむきになるのもバカらしいから、あまり口に出さないようにしたが、ずっと本気でロックスターになろうとしていた(大学を卒業する頃には本気で母と揉めてこじらせた)。ジュンスカイウォーカーズ、ブルーハーツ、ユニコーン、スパークスゴーゴー、オレはいろんなロックスター像を観察しながら、青春の多大な時間を潰していたのだ。

ところが高校生の頃、今振り返ると決定的な方向転換があった。オレが通った高校はお勉強ができる、基本的にネクラな連中が集まるボンボン学校だった。当時のオレは人の痛みをまだ知らぬシアワセな人間だったため、結構なエゴイストだったのだろう。自分の学び舎がこんなところで情けない、と常に思っていた。この学校に集まるどいつもこいつも、いけてないな、と思っていた。

ただ唯一クラスで仲良くなったのが、今赤い疑惑でベースを弾いている松田クラッチだった。クラッチとの馴れ初めなど、今は省略するが、とにかくオレのロックにおける決定的な方向転換というのは、この松田クラッチと一緒に観に行くことになった、フルーティーというバンドのギグだった。

新宿のアンチノックという古巣のライブハウスで、オレはいわゆるライブハウスに行くのはクラッチと同様初めてのことだった。平日だったのだろう、ボンボン高校の制服を着て学校帰りに行ったのだ。階段を降りると既に何だか物々しい気配がした。それは地下の世界への入口だった。物々しいというよりも何かがこれから起こりそうな、オレの知らない世界なのだが、何か唯事じゃない雰囲気に包まれていくようでワクワクしたのだ。

ライブハウスの中は人でごった返していた。そしてその暗い空間の中でタバコなど吸ったりしているどいつもこいつもが恰好良く見えた。みんなオシャレでワルそうだった。制服だったオレ達は何か居場所のないような気にさせられたのだが、そんなことはライブが始まると吹き飛んでしまった。

幸か不幸かオレ達は初めてのライブハウスでパンクのライブを観てしまったのだ。そして人がモッシュする光景を目の当たりにしてしまった。この衝撃はハンパじゃなかった。音楽の楽しみ方が新し過ぎた。オレは心が震え続けるのを止められなかった。

この時からオレの夢は歪んだ。ロックスターに描いていたものと、身近に触れたパンクという衝撃から得たものとで、自分はバンドマンはバンドマンでも、いったいどういうバンドマンを目指せばよいものか。

その後クラッチと通い続けるようになる都内の幾つかのライブハウスにて、オレは地下の世界の魅力にズブズブと魅せられていった。その地下の世界というのは当時インディーズと呼ばれていた。今でもインディーズはインディーズだけど、当時のインディーズはちょっと事情が違ってた。何を言ってんだオレは。つまり、インディーズの指す語義が今は随分と広義になった。当時インディーズと呼ばれていた音楽シーンは明らかにアンチメジャーという戦闘態勢が漲っていて、その反抗的な基本姿勢が面白かったのだ。

大学生になってインディーズ研究会というサークルを作った。まだインディーズという言葉が世間に全然定着していなかった頃だ。そこでオレはいまだに付合いのある幾人もの曲者を集めたのであるが、オレはそのサークルの連中を従えてしょっちゅうライブハウスに通っていた。ひ弱なオレもパンクのライブのモッシュには参加することができて、調子のいい時はダイブもやった。パンクはいろんなものをハジク反面、いろんなものを受け入れる優しさのようなものがある。

その頃オレは赤い疑惑の前身にあたるガッツポウズというパンクバンドをやっていた。ロックスターを夢見ながら、既にガッツポウズはそれとは懸け離れた音楽をやっていた。パンクバンドをやっていたのであって、決して上手く演奏しよう、とかそういうことは考えていなかったし、実際ヒドいものだったと思う。これでお金を得ようというのは自分でも無謀だとも思っていた。

オレはバンドで喰うことが夢だったのだ。ところがどうだろう。ガッツポウズはどうだ。オレは自己矛盾を感じながら、そうであってもしかしガッツポウズをロックスターに見立てて突き進んだ。そうするしかなかったのだ。オレがギターを弾いて松田クラッチが歌った。オレのギターもヘタクソ極まりなかったし、松田クラッチのボーカルも全然いけてなかった。

その後ガッツポウズが赤い疑惑になり、オレのロックスターは「赤い疑惑」になった。松田クラッチが「自分はボーカルには向いてない」と言い出してベースに。オレは唄うようになった。オレは音楽で喰えるように、人に受け入れられように、ということも考えるようにはなったが、パンクスピリットの名残なのか常に反抗的なモノを孕んでいたかった。だから自己矛盾は解決しなかった。赤い疑惑が売れそうな気配もまるでなかった。しかし夢とは恐ろしいモノでオレは恐れを知らず赤い疑惑で突き進んだ。赤い疑惑で売れてメシが喰えるようになると信じてアルバイトを続けた。

オレはちょっと嫌なことがあるとすぐに仕事をやめて、バイト先も転々としていた。その内音楽で喰うだろうから、と思っていたので本腰入れて仕事という考え方はなかったのだろうか。しかしながら、オレは実際に労働をしてみて、いったいオレが夢見ているロックスターとは何なんだろうか、という迷路に陥ってしまった。ロックで喰えたらいったいそれがどれだけの価値だというんだろう。ロックじゃない仕事で働いて生活するうちに憧れの感覚が変わっていくようだった。

ロックスターへの疑心は、実際にロックで喰っているバンドマンなどと触れ合ったりするうちに次第に増していくのだった。ロックでメシ喰ってるっていっても、正直かっこいいと思える「喰ってる人」をほとんど発見できなくなっていったからだ。オトナになったということなのかもしれない。

彼女ができて同棲するようになった。ガキの頃は想像もしないことだ。やはりオトナになったのかもしれない。アルバイトをしながら彼女との生活とバンド活動とを繰り返していたが、ある時期からオレはどんどん自分のロックに疑心暗鬼になっていった。このままアルバイトのまま突き進んでどうなる。売れないロックバンド背負ってこの彼女をどうする。そんな時母がガンになった。

母は胃ガンになり1年で死んでしまった。そんなことは予想だにしていないオレは取り返しのつかない気持ちに満たされた。バンドマンやってくことに反対を示した母に反抗して実家を離れたオレは、いずれそれなりになって親孝行する時がくるだろう、と甘いこと考えてたのだ。今さらことの重大さに気付いたオレは全力で看病したが死はあっけなかった。自分の身の振り方にプレッシャーができた。そこでどういうつもりかオレは初めて就職を考えていた。

就職して結婚して家庭を持とうと思っていたのだが、事はうまく運ばなかった。オレは焦り、そんなオレを見て彼女も焦り出したかもしれない。その頃自分の軸が分からなくなって精神的に擦り減った。バンドなんてもうやめちゃったらいいんじゃないだろうか。その頃はバンド活動もうまくいかなかった。休止した時期もあった。その後幸か不幸かバンドへの情熱はしばらくするとまたジワジワと燃えてきだしたのであったが、就職活動は安定せず、二転三転付き合ってた彼女がいなくなってしまった。

オレは恥ずかしい気持ちで実家に戻り、皮肉にもその後すぐに就職。とはいえロックスター熱を再燃させながらとにかく自分が信じる音楽性と歌詞とを模索し出した。喰えるか喰えないかはもう結果であって、善悪じゃないのだからいいじゃないか。その頃から夢が叶わなぬ焦燥感から抜け出せるようになった。

とはいえ、そこまでいっても現在でも、オレの頭からロックスターは未だに消えない。死ぬまで消えないかもしれない。もう、自分のそれをどうしていいのかもわからないけど、オレはそれを引きずって歩くしかない。ロックスターはオレの中ではもはや偶像であって、そのロックスターが意味する何かは、常に変貌を続け、喰うとか喰えないとかでもなくなったロックスター像が姿を変えながらオレの脳に現れては消える。その姿を追いながら曲を作って発表することだけだ。排泄行為に等しくなっている。


実は昨日、シャムキャッツとフジロック(仮)とバードレイクスという、どれも年下の世代ではいいなと思える数少ないバンドだが、その3つのバンドを一気に観たのだ。どのバンドも彼等のロックスターを追って、がむしゃらに突き進んでいる、と感じた。やっぱりみんな何か「物足りなさ」を感じてやっているな、と思った。オレと同じように彼等も彼等なりの葛藤や事情を抱えながらロックをやっていることが分かった。きっとロックにしがみついて回り出した歯車の中で、ああでもない、こうでもないと言ってやっているに違いない。みんなアルバイトで頑張っている。その姿に自分が重なるからなのか何だか切なくて仕方がない。いったい彼等も、いったいオレ達もどこを目指してロックしてるんだろう。ロックスターは悪魔だろうか。
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