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自転車(前)

田無の実家から西荻の職場に向かうのはちょっと面倒くさい。田無は西武線で西荻は中央線だからだ。東西の距離はさほどないのに、南北に電車が伸びないからだが、普通このような場合はバスを利用するのが当り前である。

ところが家から、中央線の駅まで出られるバスに乗るには停留所まで歩いて10分以上ある。それなら、ということでオレは自転車で東小金井という駅まで出る。

大学の時、八王子にあったデカいキャンパスに通った。その時はこの東小金井という駅を利用した。バイトした金で買ったパッソルというビンテージの原付で通ったのであるが、原付だと5分程度で着く。

数年ぶりに実家に戻ってきて、西荻のとある音楽レーベルに就職したオレは、その東小金井までの道のりを今度は自転車で通うことになった。

実家に戻る前、オレはしばらく元カノと同棲していた訳だが、その時は自転車は使っていなかった。運動はもっぱら、歩くか走る。しかし、その頃近所付合いをしていた絵描きのミノケンや、後輩のオグリクが、自転車を駆ってウチに遊びに来たりする、そんな光景をぼんやり眺めながらオレは、(また自転車に乗りたいな)と何となく思うようだった。

何でそう思ったのか、判然とはしないが、多分、自転車が持つあの颯爽とした移動美のようなモノに惹かれていたか、または、同じ運動なのに「徒歩」と「自転車」との間に、歴然とした運動の性質の差を読み取っていたためではないか。

歩くのと自転車を漕ぐのでは、目的地に辿り着く点では同じでも、使用する筋肉や心肺機能が異なるはずだ、とオレは当然のことを意識的に考えていた。また自転車に乗って爽快な疲労を感じてやりたい。そんな思いが沸々と湧いてくるようになっていた。

オレが赤面の思いで実家に出戻った時、家族は愛情のように優しかった。オレは安心して実家での生活を再スタートさせ、すぐに西荻での職場が決まったので、自転車が必要になった訳だが、実家には未使用の自転車が一台都合良く余っていたのだ。何故未使用なのかというと、その自転車が景品で当たったものだったからだ。オヤジが実家から目と鼻の先にある複合型スーパーにてカードを作った時に、副賞のような感じで当てた代物であったため、必要に迫られて買ったモノではなかったのだ。

その自転車は折り畳み式の、タイヤのちっこい、その癖パッと見ではオフロードでもイケます、と言わんばかりのスポーティーな外観を誇り、更にしっかりと6段階のギアがついていた。オレはタイヤのちっこいのも、オフロードでもイケます的なスポーティーな外観も、6段階ギアという玄人志向も頗るイヤであったが、ワガママを言える立場ではなかった。

ところで、この自転車は買ったモノではなかったので防犯登録も無論なかった。それでオレは何年かぶりに田無警察署に赴き防犯登録の依頼をしに行った。すると、担当の人間は「防犯登録はできません」と言うのだった。オレの自転車が盗難車じゃないことを照明する為の証拠がないといけない、という不条理なことを言うのだ。スーパーの景品で家族が当てたモノだから買った証拠はないです、と返すのだが、「ではそれを照明できる書類を」とまた分からないことを言うのだ。これじゃ、オレが、またはオレの家族が、盗難容疑にかけられているようなもんじゃないか。

じゃあ、いいです。オレは憮然として警察を後にし、すごすごと帰宅。警察での一件をオヤジに報告したら、そんな(景品でもらった証拠になるような)書類、もうどこかやってしまったという。その代わりにオヤジはなんと、「じゃあ、オレが行ってみる」と言い放ち、後日、ちゃんと田無警察で防犯登録を済ませて戻ってきた。どんな交渉をしたのか知らないがオヤジをリスペクトするか、自分の交渉ベタを実感するしかなかった。

後日談だが、オヤジがその防犯登録の顛末を近所の自転車屋のオオクボさんに話したら、「何だ、防犯登録ならウチに言ってくれればすぐできたのに」とオオクボさんは答えたそうだ。言われてみれば、なるほど、というハナシだが、防犯登録は警察に行くものだと頭で決めてしまっていたので、自転車屋に行くという発想が湧かなかった。それに、全然関係ないけどオレは、ガキの頃のトラウマでそのオオクボのおっちゃんが苦手であった。

防犯登録騒ぎも収拾し、東小金井への自転車通勤は順調に始まった。約15分ほど漕ぎはするものの、原付で通っていた時には通ることのできなかった、小金井公園を突っ切るショートカットが特に爽快でオレは満足していた。思っていた通り、徒歩の運動とはまったく異質な疲労感と爽快感を、自転車で得られることを再認識したし、気のせいかしら、身体の調子もいいような気がしていた。

ただ、やはりこの折畳み自転車は乗り心地がよいモノではなかった。何しろお金のかかるスポーティーな自転車を、恐らく相当安い素材と製法で模倣したレプリカ的産物に違いないからだ。景品で貰えるような代物なのだ。

面倒なのは本格的ライダー仕様に、サドルは高くハンドルは低くなっていることであり、これは雨が降って傘をさしながら出かける時には、大変危ない。そもそも傘をさして乗る設定はないのであろうが、オレは乗り物の都合には合わせない。オレは雨が降ってもバスを使わず、バス賃を節約してでも、傘をさして自転車ででかけるのだ。

もう一つこの自転車の欠点はカゴがないことだ。この手の自転車は普通カゴなどついていないものであるが、その点もライトライダーなオレには不満であった。オレは、(ママチャリで十分なのに)、と不平を心にしながら、とはいえ自転車を新調するほどのことでもあるまい、とただただ実家の財産としてこの自転車が眠っていたことを恨めしく思っていた。

更にこの自転車はすぐに空気が抜けた。重いギターとバンドのグッズを詰め込んだリュックを背負って乗った時はタイヤがグニャンとなってしまう。松田クラッチも言っていたが、こういうタイヤの小さい自転車は空気が抜けやすいそうで、そのせいなのかどうか、オレは頻繁に自転車に空気をいれなければならなかったのだ。

久々に触る空気入れの感じは、オレを一瞬ノスタルジックな気持ちにさせたが、空気入れの作業は大変だったことをすぐに思い出すことになる。プシュプシュと初めは楽しいが、すぐに上腕筋がつってくるような感じできつい。そろそろ結構入ったでしょう、とタイヤを揉んでみるとさっきまでの張りと大して変わってない気がする。オレは(こりゃやっぱりなかなか骨の折れる作業であるな)、と思ったのと同時に、(この空気入れの作業は、文明社会の現代にはあまりにも非文明的な運動だな)、とも思うのであった。(続く)
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