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赤旗まつりで赤い疑惑

待ちに待ったこの日がやってきた。共産党の赤旗まつりの中で行われる音楽フェスに赤い疑惑が出演することになったのである。

震災以降、あまりにも杜撰な政治やマスコミに苛立ったオレは、新しく作る曲のそのどの曲にも社会的不安や怒りをストレートに盛り込んでいった。そのせいか、従来の赤い疑惑ファンの間でも、どうも賛否両論なのか、イベントに誘われる機会も減り、毎年赤い疑惑に声をかけてくれていた唯一の野外フェスからも今年は声がかからず、ちくしょう、といじけていただけに赤旗まつりに出られるというお誘いは願ったりかなったりだった。

普段は自分達の音源はリュックか何か、楽器と一緒に自力でライブハウスに運ぶのが常であるが、赤旗まつりでは「うたごえひろば」のスタッフが物販までやってくださるというので、事前に音源を送っておいた。そのためいつもより軽装。寒すぎず秋晴れの気持ちいい天気に恵まれた。

新木場でクラッチ、そして写真係のSと落ち合い、目の前に雄大に広がる夢の島公園に入っていく。ブレーキーは30分遅刻。事前に送られてきていたスタッフ用パスを2人に渡し、まだ名前の記名欄が空白なので、「受付で書かせてもらおう」と話し合っていたが、会議机が縦に並べられた受付に立っていた数名のスタッフのオジさん達は、僕らが提示したスタッフパスを見るや「はい、こちらお通りくださいー」と事務的に僕らを誘導するのであった。記名の心配をしていたのが野暮だったか。しかしこれくらいラフな感じが嬉しいじゃないか。

入場したはいいが、後でブレーキーが遅れてくるのだから、オレは後でパスを渡しにまたこの受付まで来なくてはいけないではないか、とクラッチに不満を漏らしてみたが、結局、とりあえず現場まで行って荷物置いてみんなで戻って来ようということになった。

夢の島公園は想像以上に大きく、そして魅惑の出店や屋台がそこここいたるところにずらりと並んでいるので、僕らはライブをする予定の若者広場まで行くのに15分以上かかってしまい、現場に着くより前にブレーキーが駅に着いてしまった。ブレーキーには会場入り口まで来てもらうよう伝え、若者広場へ急いだ。

会場に着くとデモや抗議の現場で知り合った人達がチラホラと集まって話しをしたり、音に合わせて身体を動かしたりしていた。その数は決して多くはなく、(やはり、共産党のイベントともなると、若い人は身構えて足も重たくなるのだろうな)と思った。

ステージ脇のテントに行くと共産党のアイドル、吉良さんと出くわしたので挨拶すると、吉良さんがすかさずオレとクラッチに名刺を機敏な動作で手渡し、ハキハキと挨拶を返してくれた。噂に違わぬ溌剌とした表情と挙動に元気をもらう。

荷物を置き、来た道を受付まで戻ってブレーキーと合流。もう一度、今度は別の経路で若者広場へと歩く。クラッチと、さっきから感じているこの共産党という政治政党のお祭りのピースフルな空気感に対する驚きを確認しあいながら歩く。政治政党のお祭りがこんなに楽しいものだろうか。所謂野外フェスやパーティーでは味わったことのない空気感が溢れている。それは平均年齢が異様に高いことにもよるのだろうけど、オレはその感じを快く思った。

すり鉢広場で目にした数々の小さな集会。10人程の中年が肩を組んで左右に揺れながら、バンドネオンの伴奏者の演奏に合わせて共産の唄を合唱する一団。「◯◯さんも早く~!」と1人が大きな動作で手招きしながら合唱の列に誰かを引き入れようと声を張り上げている。また別の一角ではかなりご年配の方が、かなりご年配の数名を椅子に座らせたところに何やら政治的問題についての激しい講義をしている光景なども。どれもこれもちょっとした異空間に来たことを実感させるインパクトがあった。

ブレーキーの荷物も会場に預け、お待ちかね、楽しみにしていた屋台巡りに繰り出す。食べ物以外にもいたるところに何らかのブースが立ち並ぶ会場をあっち行ったりこっち行ったりしながら、今日のライブのセットリストをどうするかなどを打ち合わせた。
「今日は演奏というよりもウタだね…」
ぼそっとブレーキーが偉そうなことを言い、しかも今日のライブの成功はオレに全責任を被せようとしてきてる。うんともううんともつかない生返事をしながらオレは曲順を考え続けた。

会場を賑わす出店はあまりにもいろいろな店があるので、一行は途中で分解して、各々で食料や酒を買い込みまた集合することに。オレは富士宮焼きそばと、桜えびの入った丸型のお好み焼きなどを買い込んで集合場所に戻った。クラッチとSで既に一杯やっている。ブレーキーを待ちながらダラダラ飲んで食ってしていると中央ステージでソウルフラワーユニオンのライブが始まったのが聞こえてきた。後からやってきた、彼女を迎えにいっていたというブレーキーが戻ってくるのを潮に中央ステージに移動。しばしソウルフラワーユニオンのライブを鑑賞した。

若者広場のステージとは違い中央ステージは巨大で、爆音サウンドにも耐え得るゴツいPAセットを擁し、客席となる芝生の敷地も膨大でまさに野外フェスの様相。いつかはオレ達もこっちの方に呼ばれるくらいになれたら、などと叶わぬ妄想を繰り広げながらぼーっと聞いていた。

ぼちぼち、我々赤い疑惑の本番の時間が近づいてきたので中央ステージを離れ、若者広場に戻る。こちらは打ち込みのダンスミュージックが流れていてお客さんがさっきより大分少なくなっていた。クラッチと楽屋テントの裏側に周り、演奏の最終確認をしたり、スタッフと本番の持ち時間の確認をしたりする。そして時間が迫ると、まだDJの方のプレイ中にステージに上がらせてもらって、パフォーマンスの邪魔にならないようコソコソとセッティング。

DJの方とライブ開始の繋ぎや段取りに関しては打合わせできてなかったので、バンドのセッティングが整う前にDJの音が停止してしまった。音が切れてしまうのは若者広場でのイベント的に微妙な空気になってしまうので、メンバーと急いで控えのテント裏に周り、ステージ衣装に着替えるや否や唄い出し、お囃子をしながらお客さんの疎らなステージ前に出て行く。手拍子をしながら出て行くとすぐに数人が手拍子に同調してくれたのはいつもの通りだったが、これから何が始まるんだ、という感じでまだ冷静に傍観している人がほとんどである。これはやりづらい。

しかし、こんな時こそこれまでにくぐり抜けてきた数々の「客のいないライブ」での経験を生かし、とにかく慌てることなく「いえい!やってきました赤い疑惑です!」と叫ぶと数名の輩が「ヒュー!」と反応してくれてエンジンがかかった。落ち着いてステージに上がり演奏を始める。弾けよう、待ちに待った野外演奏である。

一段高いステージから見渡す秋晴れの空は素敵だった。他に何も無いような埋め立て地の広い空である。日は西に傾きステージの左から僕らの背面を照らしている。あの震災以降、曲を作って歌詞をつける段階で何度も逡巡しながら現実を直接的に表現する歌詞を考えては唄い、ダメだと思って書き直して唄い、試行錯誤の末に完成させた曲をメインに据えてライブを進めた。そういった苦労を思い返しながら、こんな絶好の発表の場を勝ち取ることができてホントによかったと思った。

どんなにシリアスな歌詞でも踊れる、身体が揺れるグルーヴ作りには拘っていた。それは僕らがあまりにも暗くシリアスすぎる顔で演奏したら、最近の曲に込めたメッセージも届きづらいだろうと思ったからであった。そうではなく音は飽くまでも自分達、ひいてはお客さん達を踊らせ楽しませるものにしたいという自分の中での小さな拘りだった。

2曲、3曲と進めるウチに疎らに見えた客席も徐々に人数が増え始め、僕らを観ているそのみんなの顔も概ね好意的に映った。リーマン社会の東京で違和感を感じながらバンドを始めたのは自分が楽しみながら前向きに生きるためだった。そして3年前に結婚を決意したのも前向きに生きるためだった。デモに行こう、赤旗まつりにバンドで出演しよう、そう思ったのも放っといたら悪化の一途を辿り続ける日本の社会で前向きな心持ちを抱き続けながら生きるためなんだと今日を迎えるにあたって考えていた。

そんなようなことをMCで、いつもより真面目に訴えてみた。みんな真剣に聞いてくれていた。その客席の中にオヤジの姿が見えた。オヤジは、赤い疑惑とは関係のないバラライカ奏者の伴奏者として赤旗まつりから別途呼ばれていたのである。オヤジとは安倍政権の是非に関して、実家に帰って共に食事などをする席でしょっちゅう言い争いをしていたので、ついでにMCでオヤジが安倍擁護をしていることをゲロって会場の笑いを誘った。オヤジは居づらそうに苦笑していた。後で、余計なことを喋りやがって、と指摘されたが、特別怒ってるという風でもなかった。

僕らの後に予定されていたDJの方の到着が難航してる、という主催側からの要請でアンコールを一曲やって演奏を終えた。お客さん達は拍手喝采で労ってくれた。どうやらいいライブができたみたいだ。ギターの片付けやらをしていると、見知らぬオジさんがステージの下から「よかったよ!」とオレを呼び、「これ差し入れだ」と言って、カットされ、包装されたパウンドケーキを2袋オレに押し付けてきたので有り難くいただく。楽器を片付け、ステージを降りて、ライブ中に誰からともなくステージ上に差入れられたビールを開けてゴクリとやった。

共産党員なのか分からないが、数人のオジさんから声をかけられた。
「今日やった曲はどのCDに入ってるんですか?」
今日やった曲はほとんど新曲で最後の曲とアンコールは今日売ってるCDに入ってるが、他は全部音源になっていない、ということを説明すると、
「アンチキャピタルは?」
「サンテンイチイチは?」
とグイグイ攻め込んでくる。
アンチキャピタルロックンロールという新曲をやったが、曲名を発表した訳でもないし、それなのにおかまいなしに早速「アンチキャピタル」と命名してくれたオジさんの熱にビックリしてしまった。

しかし総じてどのオジさんも、みんな力強い応援の言葉を僕にくれるのだった。オレより何歳も何十歳も歳が離れていそうなそういう先達から応援されるのは非常に嬉しいものだった。そして赤旗しんぶんの記者だという方から「ちょっと話しを聞かせてください」と声がかかったのでステージ裏に回って、記者さんの簡単な質問にやや興奮気味に答えた。そこへオヤジがやってきたが、オレが取材に偉そうに答えてる体なので少し離れた位置で取材が終わるのを待っているようだったが、いつの間にか消えてしまった。

取材が終わるとオレはこの後の気流舎の店番のことを案じた。時間はあんまりないなあ、そういえば、楽屋弁当があるとか言ってたけど…。この後の店番で弁当があったら大助かりである。会場に到着した時にあの段ボールの中に弁当があるから、と言われていた段ボールを覗いたら空である。その辺にいた人に聞いてみると、「あの中にまだあるかもしれないです」とステージ脇にある詰め所のような建物を指した。その中はいろんな関係者の荷物が置いてあって人は誰もいなかった。入って見回していると幕の内弁当が段ボールの中にあるのを発見したが最後の一つだった。

何となく悪いことをしているような気持ちでさっとその弁当を鞄に入れた。これで夕飯代は節約できるのだ。でかしたでかした。

ステージでは本日の締めとなるDJの方のパフォーマンスが異様に盛り上がっているので少しそれを楽しんで、帰りの支度をした。若者広場の正面にある「うたごえひろば」では年期の入った販売員が、ソウルフラワーユニオンや八代亜紀のCDと一緒に赤い疑惑のCDも叩き売りスタイルで販売していて、その芸達者に興奮してしまい、思わずこれは映像で残そう、とアイフォンを携えて近づいた。

「さあさあ、もう店じまいだヨ。買い逃しのないようにお願いしますヨ。さあ、只今若者広場を盛り上げた赤い疑惑のCDは3種類。1200円、1500円、1500円、3枚買っても5000円でお釣りが来ちゃう。帰って後悔しても遅いよ~!おっ、そして今店頭には赤い疑惑のメンバーも来ております。今なら本人にサインもお願いできちゃうよ~。」
大したものである。その声の張りや、テンポ、滞りのなさは見事だった。普段のライブの時のように自分で自分のCDを売るのは、なかなか気恥ずかしいものであるから今日は贅沢である。いろいろと満足したオレはみんなを促して新木場駅に向かい会場を後にした。演奏中、ホントに綺麗だったよ、とお客さんが口を揃えた夕陽も沈み、すっかり暗くなっていた。明日はオレの36回目の誕生日である。
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