fc2ブログ

日本残酷物語



いきなりおどろおどろしい装丁で驚くと思う。
実はここ一月ほどこの本を少しずつ電車の中などで
読み進めていたのだが、カバーをかけてなかったので、
周りの視線が毎度気になってしまっていた。
なんとなく不穏なオーラがこの本には漂っているからだ。

昨年の暮にトモダチからこの本の第一巻を借りた。
そのサブタイトルは「貧しき人々の群れ」だった。
ここに紹介する第五巻(これも同じトモダチがくれたのだ)
のサブタイトルが「近代の暗黒」。
いずれもそのサブタイトルから中身の濃さを想像する。

平凡社から全五巻で出版されたこのシリーズは
実際に内容も壮絶で、我々のような、文明社会の元で
飢餓や戦災に縁がない生活を送ってきている人間にとっては
読むだけで身震いを誘発させられる。

編集には山本周五郎や宮本常一など、
オレも知っている優れた人物が携わっているのだが、
内容は日本国における貧民や冷遇されてきた人間の史実が、
古くは戦国の世から、果てはこの本が出版されていた
昭和30年代にまでおよび詳細な実地調査や
口承の聞き取りにより纏められている。

何よりも驚かざるのを得ないのは
義務教育で学んできた日本史の授業ではほとんど触れられていない
国家によって隠蔽されてきた悲惨な歴史がこれほどまでにあったのか、
ということであり、これでは我々はいったい歴史を学んだことになるのか。

このシリーズ(まだ一巻と五巻しか読んでいないが)に
ハマったきっかけは、第一巻のそれも前半の方に
オレの父の実家である山口県大島郡(宮本常一の出身地でもあり)
の神社の名前「長尾八幡宮」が出てきたことであった。
明治や大正時代に瀬戸内海沿岸に頻出した海賊について触れたくだりで、
その時代の海岸沿いの部落や集落の人達があまりの貧しさに、
座礁した商船を襲ったりして金品を奪う習慣があったという
驚くべき事実の叙述の中であった。
これは他人事じゃなくて我々が暮らしている日本で起きていたことだ、
即座にそういう気持ちに取り憑かれ、この本を夢中になって読んだのだ。

海賊の話も驚いたが、まだ国家という概念がない時代の
山間部の人々の凄まじい生活や人間模様にも驚かざるを得なかった。
隣の集落が何里も離れているような地域の人々は、
常に外界からの襲撃に神経をとがらせなければならなかった。
山間部は傾斜のために耕地が確保できないので極度にひもじく、
食料が底をつきたら隣の集落を襲うようなこともあった。

またこの第五巻「近代の暗黒」には戦前・戦後の
日本の貧民の凄惨な暮らしぶりが記されている。
我々がバンドのツアーで大阪に行く度に毎回訪れていた
釜ヶ崎地区の発祥のいきさつや暮らしぶりの内情などが、
それは私が最も知りたかった点であったが、
実に細かく詳しく述べられている。

また前から気になっていた「オイチニの薬売り」の実態や、
「北海道開拓史のタコ部屋」や「東北地方からの出稼ぎ労働者」の
ことなど、背筋がピンとするような内容の記事が
これでもかという具合に、しかも全体的にかなり客観的に述べられている。

我々一般市民が国家や権力の前でどれほど無力か。
そして現在の文明社会がどれほど生きやすく、
ワガママの通せる時代なのかを思い知る。
これだけ生きやすくなったのに息苦しくて集団で自殺したり、
うつ病が蔓延したり、希望を失った人間が人を刺したり。

歴史は振り返ることしかできないが、
歴史の振り返り方というのは幾通りもあって、
そこから何を受け取るかはそれぞれに委ねられていて、
オレはこの本と出会えてよかったと思ってい、
そしてこの本を貸してくれたトモダチに感謝している。

スポンサーサイト



プロフィール

アクセル長尾

Author:アクセル長尾
赤い疑惑の活動報告
およびアクセルの手記
赤い疑惑WEB

最新記事
カテゴリー+月別アーカイブ
 
リンク