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アクセルの意気地記 第4話 台湾編

私が初めて海外旅行というものを経験したのは大学1年の冬のことだった。友人に誘われるまま訪れた先はタイとベトナムで、ここで想像以上のカルチャーショックを受け、海外旅行の味をしめた私は、学生の間に出来る限り、と思い、バイトで金を貯めつつ4回ほど海を渡って異国の情緒を味わった。

その旅熱は当時、かねてからのバンド熱と肩を並べる程に高まり、自分はバンドマンになりたいのか旅人になりたいのか、と迷ったほどであったし、あわよくばその両方を実現できたら、とさえ真剣に考えていたほどであった。

しかしひとまずはバンドマンになることを優先させるべく、土日と夜は自由になるバイトを選んだところ、貯金などできる訳もなく、私は貧乏生活に突入し、旅熱は次第にフェイドアウトせざるを得なかった。

以降、私が海外旅行を実現できたのは20代後半、第一次就職決意期の就活前に20日ほどインドに行ったのと、もう3年ほど前になるだろうか、配偶者のピーさんと新婚旅行と称して2週間ほどタイとラオスを巡ったのと、その2回きりであった。

旅人、トラベラー、ボヘミアンは孤独。旅するなら個人旅行に限る。バックパッカーの真似事をしていた当時、私はそんな風に思い込むようになっていたが、新婚旅行の際は、海外行けるなら1人でも2人でも何人でもいい、行こう行こう、と意固地な拘りはあっさり過去のものとなっていた。

それでも、きっと今後子供が生まれるような幸運に恵まれたら容易に海外などには行けなくなるだろう、という覚悟もしていた。一般的に赤ちゃんや子供を連れての海外旅行というのはハードルが高いというし、自分が行きたくても家族の同意と理解がなければ無理である。

前置きがずいぶん長くなったが、こと子が生まれて数ヶ月が経過し、初めての子育てに翻弄されていたある日、突然ピーが、台湾に行こう、と言い出した。私は勿論驚いたが、実は私とピーの共通の友人の中に何人も台湾に行った者がおり、ウチらも台湾行きたいねえ、という話しは既に夫婦の間で交わしてもいた。ただこと子が生まれてからそんな話題は出なかったし、それどころではないと私も思っていたのだ。

そんな中でのピーの台湾発言は私を驚かせたが、奥さんさえ前向きな姿勢なのであれば赤ちゃんがいてもどうにかなるだろう、と私はすぐにその案に同意した。

それからトントン拍子に話しは進行し、こと子のパスポートの手配(乳幼児でもパスポートが必要なことを知らなかったので驚いたが)、飛行機の手配、宿の手配も完了。飛行機はLCC、宿はairbnbの低価格物件を選んだので正に貧乏旅行。現地での移動にきっと重宝するに違いない、ということで軽量化タイプのバギーもジモティーでゲット。

2月中旬出発予定、期間は7泊8日ということで我々は期待を膨らませつつ過ごした。今までの旅行のようにあっち行ったりこっち行ったりや、シビアな環境での長時間の移動は赤ちゃんが可哀想なので、飽くまでも街をプラプラ歩いたり、美味しいゴハンを食べるというのを主軸にしようと我々は作戦を練った。もっとも、元より観光名所を巡るよりも街をプラプラする方が好きな私ではあるのだが…。

安い飛行機なので出発が早朝であり始発で地元の駅を出なければならず、前夜は早く寝なければならなかったのだが、夜12時前くらいだったかこと子が床で泣き出すので見に行ったら、かなりの量のミルク、というか母乳を吐いていて、私もピーも動転した。その後も嘔吐が続いたので、動揺しつつ救急センターに電話。応対の女性に事情とこと子の様子を伝えると、吐いているだけなら様子を見た方が良いとのこと。明日の朝病院に行けば良いだろう、とも言われたが病院に行くのではなく台湾に行くことになっているのだから、私とピーは顔が青ざめた。

チビゲロはこれまでにもあったが、本格的な嘔吐が初めてなので全然安心できず、ほとんど寝られずに朝を迎えた。大事をとって旅行をキャンセルするのが妥当のように思われたが、支払い済みの飛行機代も宿代も水泡に帰する。

吐いて意識が朦朧としたり、顔色が悪くなる訳でもなかったから、大丈夫かもしれない、という希望的観測と、お金がもったいない、という庶民的感性が我々を台湾旅行に引っ張り続け、私もピーも、諦めよう、と言い出せない。その代わり夜が明けて、こと子がいつも通りの表情であることを確かめつつ私は提案した。とりあえず成田まで向かってみよう。それでもし成田への途上でまた吐くようなことがあったら、その時は仕方ない諦めよう。

まだ薄暗い田無の町を出発し、緊張したまま我々は成田へ向かったが、幸いこと子はケロっとしていて何事もなく空港へ到着。そしてそのままフライトに臨むことができてしまった。やったー。

飛行機に乗り安心して、ピーと、よかったね、よかったね、と昨夜の労をねぎらい合い、私達の隣に座っていた日本アニメオタクの女子と、これから行く台北の町について、オススメを聞いたり談笑していたらこと子がまた吐いた。抱っこしてた私の上着やズボンが見事に汚れた。あー、っと私とピーはティッシュやウェットティッシュであちこち拭きながら騒いで、同時に絶望。やっぱりヤバかったのだろうか…。

そんなことを今さら言ってもしょうがない。もう後は台北で病院を探すしかない。2人で暗澹たる気持ちに沈んだのだが、吐いた後のこと子はやはりケロっとしていた。

結局その後嘔吐は止まったので宿に着いてからも病院は行かず、旅を楽しみながら経過観察をしているウチに嘔吐は止まり、しかしちょっとした風邪なのか下痢をしていたけど、最終的に病院の世話になることもなく旅程を終えることができたのだ。

台北は地下鉄の便が整っててバギーが大活躍だったが、台南では地下鉄がなく、自転車を借りての観光が基本であるという現実に直面し、抱っこ紐を携帯し忘れた私達は手をこまねいた。

困った時のインターネット、というわけでピーが抱っこ紐の代用はないかと調べ出したところ、バスタオルを対角線の角で結び、簡易抱っこ紐というかスリングのように赤ちゃんを抱きかかえる方法が見つかり、早速試してみたらこれがなかなか使えた。台南での自転車移動はそのやり方でこと子を抱え、片手で補助的にこと子を抑えつつ、前かごにバギーをはみ出し気味に差し込み、慎重に運転してあちこち走った。異国で自転車を漕いで走り回るのは何とも楽しいものだ。

私達は7泊8日の旅程で街を歩き回り大衆料理を食べて食べて、東京では味わえないのんびりした時間の中で親切な台湾の人々と触れ合い、観光名所にも大してアプローチせずとにかく街歩き。こと子のことを心配しながらもあちこち連れ回してすっかり楽しんだ。

さて、そんな風に楽しかった台湾旅行だが、まだ乳飲み子である乳幼児を海外に連れて行くのは正直に言えば大変な面も沢山あった。飛行機内では当然何度もぐずったし、泣かれたら立ち上がってあやし、座っていても抱っこのまま寝られたらそのままの体勢でじっと我慢してなきゃならない。宿でも安心して放牧(抱っこから床や畳、絨毯など地面にリリースすることを我々はそう呼ぶ)できるスペースはベッドの上しかなかったし、買い物でも観光でも何でも、バギー上のこと子が泣けば抱っこしなければ収まらず、抱っこしたまま歩いたり、階段を上ったり、何かを待ち惚けたり、なかなか体力が要る。

オムツを替えるのも外だと一苦労で、今回の旅の最中、飲食店の裏口やマーケットの片隅でコソコソ替えたこともあったし、小さい赤ちゃんのいるお宅に、すいません、オムツを替えさせてください、と頼み込んで場所を貸してもらったこともあった。
食事中も、座高のかなり低いバギーだったせいでこと子はすぐに機嫌を損ねて泣いた。仕方ないので代わり番こに抱っこしながら食べた。赤ちゃんを抱っこしながら食べるのは、左の手で赤ちゃんを抱えて、その腕をなるべくテーブルから離して右手で食べる。抱えた左手がテーブルに近づくとすぐに赤ちゃんは食べ物を荒らし始めるからだ。

もちろん嘔吐に下痢に、大事には至らなかったものの、体調を崩した時の心配は海外では余計に増える。台湾は日本語がある程度受け入れてもらえそうだが、英語が通じない他の国に行ってたら心配はさらに増えるだろう。

とはいえ、台湾はというと噂通り、どこにいても周りの人たちが優しくしてくれたし、困っているとどこからともなく日本語を話せる人がやって来ていろいろ助けてくれる。バギーで移動してるだけで、いろんな人たち(特におばちゃん)が、まあカワイイわね〜、と可愛がってくれた。

道徳とかモラル、文化の違いなのか、電車での優先席の扱い方も丁寧で、赤ちゃんを見るとすぐに譲ってくれたし、東京のように優先席なのに元気なヤツらが我が物顔で座って澄ましてるなんてこともなかった(これは台湾在住の友人も言ってた。儒教の関係でしょうか?)。

そして何より今回の旅で私はこと子と今まで以上に仲良くなることができた、というか距離が縮まったというか。休みの日以外、普段は朝と晩の数時間しか一緒に居られないのに、この旅行中は四六時中一緒に行動していた訳で、自然と抱っこしてる時間、戯れる時間が多く、オムツもいっぱい替えた。そのせいか、気のせいか、こと子もこれまで以上に私をパパ認識するようになってくれたみたいだ。

帰国便の飛行機がLCCのせいか、何と4時間も遅延した。赤ちゃんがいるので遅い帰国を避けるため、夕方に着く飛行機を選んだのに成田に着いたのが20時半。疲れ果て、京成線に乗るのがシンドくてチョイスした新宿行きのリムジンバスに乗り込むとすぐ寝てしまったこと子を抱きかかえながら、みんな無事に帰ってくることができて本当によかった、と台湾旅の濃密な時間を振り返りながら私はしみじみと思った。
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