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アクセルの意気地記 第7話 我が子可愛さに

赤ちゃんは遊ぶことが仕事、と何かに書いてあったが、子育てをしてみるとなるほど納得する。首が座り、腰が座り、ハイハイができるようになればそこら中にあるものを握ったりくわえたり、振ったり、叩いたり、とにかくじっとしてられなくて勤勉に仕事に励む。

手で握れる物なら何でもおもちゃになってしまうのだが、握り心地や、形状、触ったりした時の音などで好き嫌いがはっきりしてくる。こと子は箸やペンなど、細長い棒状のモノが好きで、私が食事をしていると箸を奪い取ろうと強い力で引っ張る。その箸で皿やらそこら辺を叩いては楽しそうにしている。

ぬいぐるみなどは分かりやすく反応がよくて、中でもクラッチ家からお下がりでもらった白いうさぎのぬいぐるみが大好きだ。近づけると顔をくしゃくしゃにして喜んで抱きしめたりするので、困った時はこのうさぎを連れてくる。他にも実家でホコリを被ってたリスや、振るとキュッキュと鳴くペンギンや、クマのぬいぐるみがそのままリュックになったやつなど、眼、鼻があって動物らしきものは、何かしらの生物であると認識できるらしく、なおかつフワフワの触り心地がこと子を興奮させるらしい。しかし、クラッチ家は男の子でうさぎのぬいぐるみは全然ウケなかったらしく、不思議だが、こういうところに早くも男子、女子の違いが出ているのだろうか。

こと子は4月から保育室に通えることになった。保育室というのは認可型小規模保育というカテゴリーで、そこは定員5名なので丁寧に子供を見てくれる、というのが利点らしい。ウチから歩いて5分かからない、とにかく近くていい。そもそも、もともとピーが週2、3回のバイトだったので、保育園に応募してもダメだろうと思っていたのだが、どういうくじ運なのか通ってしまった。しかも世帯収入の低い我が家の保育費は1万円以下で済んでビックリした。

保育室には幼児向けのいろんなおもちゃが置いてあり、私は面談の時にそれらを解説してもらいながら眺めた。その中で、丸いものを丸い穴に落とすだけのおもちゃがあって、私にはそれが印象的だった。

丸いものが丸い穴に入って落ちる、という大人からしたら何でもない道理が赤ちゃんには面白いらしい。私は感心した。そうだ赤ちゃんにとってはすべてが未知の世界なんだ。

とある日、用事があって近所のハードオフに行った。子供のおもちゃコーナーを何気なく見ていると、ある木製のおもちゃが目に止まった。一辺10数センチの立方体で中は空洞。1つの面が開閉式になっていて開けるといろんな形に整形された木片が入ってる。表面が正方形、長方形、三角形、台形、丸、楕円、などいろんな形をした、厚みのある木片だ。立方体の3つの面にそのいろんな形の穴が穿ってあり、その穴にそれぞれの木片を、形を合わせて立方体の中に落として遊ぶだけのおもちゃだ。

私は保育室で見たおもちゃのことを思い出してそれが欲しくなった。木のおもちゃ、というだけで魅力だし、それぞれの木片はカラフルなペンキが塗られてて楽しいし、何しろ中古で300円とお値打ちではないか、というわけで買ってみた。

不思議そうに見つめること子を前に、私がデモンストレーションでオレンジの円柱を丸い穴に合わせて箱の中に落としてみた。すると眼を見開き、歯のない口をあんぐりと開けてこと子が私を見上げた。(あぁ〜!)と、声は出さないけどとにかく、最大限に驚いた表情なのだ。その表情が可愛すぎて、純粋すぎて、私はこと子を抱きしめずにはおれなかった。

この驚きのあんぐり顔はその木の箱のおもちゃで遊ぶ時以外にも驚いた時に発動するようになった。その顔を見ると私もつられて「あぁ〜!」っと声をあげて、ビックリ顔で一緒に驚くのが楽しかった。保育室の先生は「顔の半分が口になる」と表現していたが言い得て妙である。

さて、さきほどの木の箱であるが、穿った穴と同じ形の木片を落とすのがこのおもちゃの面白みなのだが、まだその仕組みが分からないこと子は、開閉可能な面を開けてそのまま木片を、その大きく開いた面から、穿った穴を通さずに中に放り込んでも同じあぁ〜! の表情を私に向けてきた。おもちゃの設定を無視してもこと子が面白ければオールOK。要するに箱の中に何かを入れたり取り出したりすることが面白いらしいのだ。

その面白みのせいでこと子はゴミ箱からティッシュやらゴミを取り出したり、ゴミじゃないものをゴミ箱に入れて、あぁ〜! と1人で楽しそうだ。ある時私の爪切りを、目の前でゴミ箱に放り込んでいたのを眼にした私は、(仕方ない、後でゴミ箱から救出しよう)と思いながら忘れてしまった。

それで後日、爪切りがないぞ、ないぞ、と探し回り、たまりかねてピーにも爪切りを知らないか、と救いを求めたが一向に見つからない。丁度燃えるゴミを出す前日の夜、ふと数日前にこと子が爪切りをゴミ箱に放り込んだ瞬間の映像が脳裏をよぎった。

私は興奮しながらゴミ箱を漁った。爪切りはそれなりの重さがあるので、汚い芥をかき分けてゴミ箱の底に手を伸ばすと果たして爪切りがあるではないか。私は安堵して奇跡的な爪切りの救出に満悦した。

こと子はまだしゃべらないが、最近では「マンマ」「ワンワン」など多少表記可能な単語を発する。その中で「ドンバ」というのがあって、響きが面白いので、真似して面白がっていたら、それが段々「ボンバ」になり、状況によっては「マンバ」になったり「ドンドンバ」に変わったり、「ドンベ」と言ったかと思えば最終的には「ドンベシ」となった。

こと子の中では何かしらのタイミングや動機があってそれらの言葉を発してるのであろうはずで、そう考えると興味深い。2歳くらいになったらどういう意味だったのかこと子に聞いてみようとピーが言ってるが、そんなことは可能なのだろうか。しかし、幼児に胎児の時の、つまりお母さんのお腹にいた時のことを聞くと覚えていて話してくれる子たちがいるらしい。だとすると後で「ドンバ」の意味も分かることがあるかもしれない。

「バ」という濁音は発音しやすいのだろうか。こと子にいないバーを教えるとすぐに気に入って、いないいな〜い、をこっちが言うと嬉しそうに「バア」と答えるようになった。初めは布を使って顔を隠したりしてたので、垂れ下がるカーテンの下で、カーテンの裾を引っ張って自分の顔を覆い、顔を覆った布を振り払っては「バア」と言っている。これは自作自演であって1人でやっているのである。愛おしい。

最近では私が仕事から帰るとダッシュでハイハイして来たりして胸キュン度は最高潮である。こんな体験を世の中の父親たちはさりげなく体験していたのかあ、と思うと不思議な気持ちになる。我が子可愛さに、という響きだけ長年何となく聞き流していた。そりゃあ自分の子供は可愛いのだろう、と何となく想像していたものだが、実際の可愛いさ、というのは想像を遥かに越え、私は生きる力を、活力を、こと子からもらっているようだ。
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