赤い疑惑×EKD インタビュー by 萌芽(京都)
5月某日 吉祥寺某所
京都のイベント『萌芽』のスタッフによるインタビュー。
面白い内容なので、すげえ長いけど主催者の了承を得てここに全文掲載。
最後はEKDとのセッション映像をお楽しみにください。
インタビュー 前編 中編 後編 映像
アクセル長尾(以下・長):今日はどんな感じなんでしょうか?
―京都の人々に、赤い疑惑とEKDのことをもっとよく知ってもらおう、みたいな感じです。
長:なるほど。
―たぶん話があっちゃこっちゃ飛ぶと思うのですが、いろんなことお話できたらと思います。よろしくお願いします。
赤い疑惑・EKD:よろしくお願いします。
―それではまず、自己紹介を。赤い疑惑、ギターボーカルの…
アクセル長尾(以下・長):あ、はい。アクセル長尾です。
―下のお名前は…
長:えと、玄武です。玄武と書いて、はるたけ。
―あ、だからげんちゃんって呼ばれてるんですか。かっこいいお名前ですね。
長:親父がつけたんです。
―国語の教師の…
長:あ、はい(笑)。よくご存知で。
―ええと、では、お隣に座ってらっしゃるベースの…
松田クラッチ(以下・松):松田クラッチです。
―下のお名前は…
松:健志です。健康の健に、志村けんの志で…
―たけしさん。
長:多いよね。たぶん。松田健志って。
松:グーグルで調べてみたけどそんなに多くなかったよ。
―あ、ググったんですね。
松:はい。…(笑)いや、最初は松田太郎になる予定だったんですけど…母親の強い意向で健志に。
―はは。強い意向。松田太郎もいいお名前ですけども。ええと、ではドラムの…
沓沢ブレーキー(以下・沓):ドラムの沓沢ブレーキーです。
―沓沢さん。
沓:沓沢亮です。なべぶたの亮。
長:こいつ、自分の名前気に入ってるんです。アルファベットで書いたらちょっとかっこいいとか言って。
沓:いや、あ、はい(笑)。でもあだながつけられづらくて、ちょっと困りました。
―ははは。…では最後に…
EKD(以下・E):EKDです。
―池田さん。
E:あ、はい。池田です(笑)。
―やっぱり池田さんだからEKDなんでしょうか。
E:はい。
―池田さんは下の名前は…。
E:大樹です。大きな樹木で…。
―よくECDと間違えられませんか。
E:いや、間違われはしないですけど…(笑)。
―うちのスタッフでEKDのレビューを書いた者が、初めECDやと思って音源聴いてたらしいんですね。しばらくして、「なんかちがう」と気づいて、「あ!EKDや」とびっくりしたらしいです。
長:「埼玉のラッパー」って映画に、TKDっていう人物が出てた。タケダさんなんだけど。
沓:友達にTKCっていうのがいる。たけしで。
―いろいろいるんですねえ。
E:みたいですねえ。
―ではあの、赤い疑惑の結成時の話から、と思うのですが。元々は長尾さんと松田さんがバンド組んでらっしゃったんですよね。
長:はい、GUTSPOSE(ガッツポウズ)というバンドを高校からや大学在学中ずうっとやってて、卒業と共に解散しました。
―長尾さんと松田さんと…。
長:あと二人。その二人が、就職組だったんで。俺はそれが許せなかったから…。
―許せなかったんですか(笑)。
長:辞めろ、と。
―就職を?
長:バンドを。何か、続けられるんなら続けるとか言ってたから。
松:いや、でも今聞くと、辞めるつもりだったらしいよ。バンド。
長:あ、そうなの。
―はは。
長:で、松ちゃんは、こうするとかこうしないとか、元々決めない人だったから、そのまま(笑)。
松:はい。元々はボーカルだったんですよ。メインの。
―へー、そうだったんですか。
松:歌詞を持たないボーカルでした。決まったフレーズは曲にそれぞれ2、3個だけで。
―あとはアドリブだったんですか。
松:フリースタイルです(笑)。
長:最初はハードコアを目指してたんです。ハードコアって、こうじゃーじゃーじゃーってコードがあって、そこに叫びを乗せる形だから、そのころはそんな、メロディをどうこうって感じじゃなかったですね。
―そのときからライブは頻繁にされてたんですか。
長:いや月に1回くらいのもんで。Less than TVってレーベルがあって、俺が当時そこに金魚のふんみたいにひっついて回ってたんですけど、そこでまあいろいろアピールしてたら、そのうちイベントに呼ばれるようになって。そっから結構ライブやるようになったな。
―なるほど。
長:で、まあGUTSPOSEを解散させて、松ちゃんにどうするよって訊いたら、「バンドやるよ」って言うんで、続けることにして。でもボーカルやりたくないっつうから。
―あ、やりたくなかったんですか(笑)。
長:GUTSPOSEやってるころから、もうボーカル辞めたいって言ってた(笑)。
松:なんかもう、自分をがーっと出すっていうのが、あんまり好きじゃないってことに気づいちゃったんですよね…。いや、けっこう前から気づいてはいたんですけど(笑)。
長:真ん中に立ってんのに、いつも斜め向いて歌ってるんです。
松:顔見せないようにしてるんです。背中を見せて。
長:背中で語るスタイルで。
―(笑)いつからベースされてるんですか?
松:ええっと…GUTSPOSE辞めてからです。
―え、あ、そうなんですか?
長:そういう「やっちゃえやっちゃえ」みたいなのを大事にしてたんです。パンクだから(笑)。
―沓沢さんも確か、ドラムはやったことなかったんですよね?
沓:そうです。楽器ほとんどやったことなかった。エレクトーンくらい(笑)。
長:沓沢の前に、松ちゃんがベースやりたいって言ってたから、ベースは決まってて。で俺ギターだし、ドラム探さねえとなってことで探して。沓沢の前に2、3人ドラムで入ったんですけど、まあ、いろいろあって…辞めて…。
―ほお。
長:あれは沓沢が大学6年生のときか?よくいるじゃないですか。大学長くいすぎてよくわかんなくなってる人。あれだったんです、沓沢が。時間だけはかなりある奴。
沓:暇だけはありました。
長:俺はもうバイトして働いてて、松ちゃんは5年生だったけか。そんな中、夜な夜な俺んちに集まって、なんやかやしてるときに、彼(沓沢)もよく来てたんで、「やってよ」と。「ドラムを」(笑)。
沓:ずっと断り続けてたんですけど。「俺ベースがやりたい」って…。
―(笑)ベースやりたいって言ってんのに。
沓:ドラムになっちゃいましたねえ。
長:俺らそのころレゲエ聴き始めたころだったんですけど、レゲエってベースライン重要じゃないですか。その影響もあったんじゃない?ベースやりたいってたのは。
沓:いや、つうか、俺初心者だし。ベースだったら何か、できんじゃねえかなって。いきなりドラムって言われても難しそうじゃん。
長:でもまあ、スタジオで無理やりやらせたら、わりと叩けて。その前のドラマーに比べれば驚異的な上達っぷりでしたね。それでドラムに。
一旦TOPに戻る
―さっき言ってましたけど、ずっとやってたハードコアから今の赤い疑惑になったのは、どういう変化だったんですか。
長:ええと…自分は、次バンドやるときは、歌がねえとなあって思ってて。ちゃんと日本語の歌詞の。でも松ちゃんはもう歌えないし(笑)。で、俺がボーカルやるわって言って。はじめほんと自信なかったんですね。まあだけど、躊躇しつつも試行錯誤を重ねていって、練習しましたね。沓沢にだめ出しされながら(笑)。
沓:そうだね。だめ出ししたねえ。
長:ボーカルスクールにも通ってたんですよ、3ヶ月くらい、発声の練習とかもして。
―へえー。
長:で、ボーカルやりながら曲作りもしてたんですけど。俺が大学卒業したくらいのとき、いわゆるオルタナティブロックとかパンク、ハードコアって、飽和状態にあった感じなんですね。音楽ってこれだけなのかなあって思ってて。レコード屋に行けばヒップホップとか…何かいろいろあるじゃないですか、音楽の種類が。俺は音楽好きでいたかったから、いろいろ聴いて嗜まなくちゃなあっていうのがあったんですね。たとえばYOUR SONG IS GOODが、いわゆるパンク組から脱け出していろんな音楽取り入れだしたときは、うおーって思って、俺もいろいろ聴こうと。それから野心的にいろいろ聴き始めて、自分のバンドでもなんかひねりを入れていきたいなあって思ってました。…あと歌詞も考えたなあ。80年代のジャパコア…INUとか…すげえ言葉に力があって、人を動かせるようなバンドになりたいってずっと思ってた。日本語が好きだから。
―松田さんはそういう方向性の変化に反対しなかったんですか?
松:いや、方向性をあえて変えたって言うよりは…こうやって皆で会ってるときに、聴いてた音楽がパンク・ハードコアからレゲエ・ヒップホップに変わっていって、こういうのかっこいいねって言うようになって。自然に変わっていったんですよね、嗜好が。
長:ずっと同じ音楽を聴いていたから。不思議なくらい、ずれがなくて。
松:そういう意識が芽生え始めたのが、「東京サバンナ」あたりだよね。でもまだハードコア感が残ってて…。
長:うん。やり方がわかんなかったんですよ(笑)。ギターとベースとドラムで、すてすてすてーっとやることしかやってなかったから。どうやったらこんな感じの音楽になるのかなあって、わかんなかった。でも多分一番大きく変わったのは、「フリーターブリーダー」でラップをやろうと思ったとき。友達でヒップホップにどっぷり浸かってる奴がいて、彼はすげえシャイな奴なんだけど、俺らの前ではラップをよくやってて。それ見て感動して、影響受けた感じですねえ。
松:彼、電話かけてきて、いきなりラップを始めたりとかするんですよ。あと玄ちゃん家にいるときに、突然面と向かって1対1でラップを聴かされたり(笑)。そういうスパルタ教育を受けていたので、なんとなくヒップホップに流されたというか…。
―へえ。
松:で、ある日、大阪ツアーに行く前に、玄ちゃんがバイクで事故って骨折しちゃったんですよ。環七で居眠り運転しちゃって。
―ひえー。寝ちゃったんですか。
長:停まってる車にぶつかっちゃったんです。それで練習に行ったんですけど、何かぴちゃぴちゃいってるんですよね、脚が(笑)。病院行った方がいいよってんで行ってみたら、内出血が起こってて、血が全部下に溜まってぶよぶよになってて。ぱんぱんに腫れてましたねえ。壊死するとこでしたよとかって言われて。
松:それで入院したんですけど、お見舞いに行ったら、玄ちゃんが「フリーターブリーダー」の歌詞を書いてて。「おー今度ラップやるから」とか言ってて(笑)。で、見たら俺のパートも全部できあがってた(笑)。フリーター側の意見と、彼を諭す側の意見が、うまいこと描かれてるし、「うんわかった」って。
長:ラップってある意味ダジャレじゃないですか。俺の親父がダジャレ好きなんです。で、幸か不幸か、俺のお袋もダジャレ好きなんです。だから、俺も韻踏めるかなあって。
―筋金入りですね(笑)。
松:あともうひとつの転機はカヨちゃんだよね。
長:あー…別れた俺の彼女なんですけど(笑)。よくだめ出しされてたんです、彼女に。暗いとか。あがれないとか。
松:踊れないとか。全体的にだめだしされてましたね。
長:されてたねえ。「よーしそんなに言うならあがるような、ハッピーなのもつくってやるぜ」と思ったりもしたけど。…まあでもずっと俺が思ってたのは、弱音をぶつけることをやりたいってことだったんです。二十歳すぎると、男って社会に対する文句とか、生きてく上で滲み出てきてしまう弱音とか、そういうのを表に出すのはだめなことだって、普通思われるじゃないですか。だけど俺は、「そうは言っても本当はみんなこう思ってるんじゃないの?」って言いたかった。でもそれってリスキーだし、「そんなこと歌ってもしょうがないじゃん」って思われることもあると思うんですけど、俺はどうしてもそこがやりたくて。みんな言わないけど、腹の中ではこう思ってるんじゃないのって言いたくて。家族のこととか仕事のこととか、ひとりひとり考えてることがあると思うんですけど、普段なかなか表明できないじゃないですか。だから俺は歌いながら、みんなは本当はどう思ってるんだろって、考えてますね。いつも。
―家族のことについて歌うバンドって、今めっちゃいますよね。家族のことを大事にしようみたいな歌。そして売れてますよね。だけど、私はああいうのを聴くと、反発しちゃうというか、うんざりしてまうんですよね。何か道徳の授業みたいで、「そんな簡単なもんじゃないんだよー」と。だけど赤い疑惑の歌はそういうところがないです。素直に「そやなー、家族にもっと感謝せななあ」と思ってしまう。何かもう、聴いてたら電話かけてしまう、おかんに(笑)。さっき言ったようなバンドとどこが違うんやろかって考えたら、長尾さんが今言ったように、腹の中で思ってる本当のこと・弱音・文句、そういうことを歌っているからなんだと思った。この人は本気で言ってるんだなあってわかる。この人は口だけじゃないなあってわかるから、赤い疑惑に素直に感動するんだと思うんですよ。
長:あー、そう言っていただけると、嬉しいです。はい。
疲れたのでTOPに戻る
―そんな感じで私たち赤い疑惑大好きで、この萌芽っていうイベントに出てほしいってオファー出したんですけど、そのとき長尾さん、「EKDも是非一緒に!」っていうお返事をくれましたよね。それでめでたくEKDさんもお迎えることになったんですが、赤い疑惑とEKDの出会いって何だったんですか?
長:岩崎(注:萌芽のスタッフではない)君っていう友達が、「EKDっていうかっこいいミュージシャンがいる!」って教えてくれたのがきっかけですねえ。音源渡されて聴いてみたら、めちゃくちゃかっこよくて。なんていうか…反抗的な感じがしたんですよね。すげえ気になって。それで、自分らの音源をすぐに池ちゃんに送りました。
E:あ、でも、俺、その前に一度見てるんですよ、赤い疑惑。俺ユニオンでバイトしてたことがあったんですけど、そのインストアライブに出てた。おもしろいなあって思って観てましたけど。
沓:えっいたの?
E:うん。
―それは奇遇ですねえ。
長:まあそれから交流が始まり。池ちゃんのやるイベントにも顔を出すようになったんです。池ちゃんは“未来世紀メキシコ”ってDJ集団のひとりで、そういうクラブ系のイベントをやってるんですけど、だから、俺らバンドとはちょっとカルチャーが違うんですね。俺、それより前に、友達に誘われてクラブ系イベントに何度か行ったことあるんだけど、あんまりなじめなくて。でも未来世紀メキシコは、ファッションとか洒落でやってるんじゃない感じで、すげえ良かった。ほんと、すばらしいと思って。それで、シーンはちがうけども一緒にイベントやろうと思ったんです。
―EKDさんはどんな音楽を聴いてきたんですか?
E:高校のころは、パンクを聴いてたんですけど、同時にジャマイカの音楽とか、コロンビアの民謡とか、ルーツの音楽が好きでよく聴いてきました。スペインとかメキシコとかアルゼンチンとか、そこらへんでやっているロックラティーノっていうミクスチャーの音楽が、すごいおもしろくて。
長:うん。すごいおもしろいんですよ。俺はワールドミュージックは好きでよく聴いてたんだけど、池ちゃんに教えてもらうまで、そういう音楽知らなかった。たぶん、情報の入り方が俺らとぜんぜん違うんだと思う。
松:タワレコとかユニオンとかじゃないでしょ。
E:うん。
長:かなりラジカルだと思う。そのへんの音楽ってたぶん、日本のバンドシーンではほとんど知られてないんだろうけど、そういうの広げたらおもしろいと思って、赤い疑惑にも反映し始めたんです。
―私たちには本当になじみのない音楽なんですよ。だから、最初EKDの音楽をmyspaceで聴いたときは正直悩みましたね。萌芽に出てもらう京都の他のバンドとブッキングしても大丈夫だろうか?って。実は私、民族音楽をやってる人に対してちょっとした偏見を持ってて。何ていうか、自由だったらいいって思ってるふしがあるんじゃないかなって。だけど音源をちゃんと聴いたら、EKDにはそういう感じ、突然河原でチャカポコしだす感じがしないなあって思いました。これ、うちのスタッフがレビューに、「国民楽的な魅力があって、楽譜に起こしたときにいろんな人が楽しめる音楽だ」って書いてるんですけど。私も音源を聴いてそう思いました。そういう意味で、「きちんと構築された音楽なんだなあ」って思いましたね。なんかうまく言えないですけど…。
E:いや…同じようなこと、言われたことあります。変なことしてるのに、ちゃんとした音楽だ、って(笑)。
―あ、そういうことです。見知らぬ人でも、ちゃんと楽しめる音楽。
長:あと、和の要素も感じる、どこかしら。俺はそういうところがすごく好きで。一昔前にラテンブームが起こったじゃないですか。コーヒールンバとか。俺は池ちゃんのことをギタリストとしてすごく好きなんですけど、池ちゃんのギターにも、そのラテンブームにおける日本の歌謡曲っぽさがにじみ出てる感じがする。
―ああーそうですね。外国の音楽をただ真似たり追っかけてる感じがしない。きちんと自分の色を出してると思う。
長:あと、初めに池ちゃんの音源を聴いたときに、パンクロックバンドのThe Clashの感じを受けたんですよ。何でかわかんないけど、反抗的なメロディを感じ取った。キャッチーでメロディアスなのに、コラージュっぽさもあるし、野心的な感じもした。ただクラブミュージックに影響を受けましたっていうんじゃない。歌詞はないのにアティチュードがしっかりしてる。そのアティティードって何かっていうと、弱者側の視点であったり、アンチグローバリズムであったり…社会の流れに疑問を持ってる。そういうところに惹かれたんだと思います。漠然としてるんだけど、そういう姿勢や考え方を感じ取って、自分と似てるんじゃないかなと思った。それで話してみたらやっぱりそうだったしね。池ちゃんの音楽にも、社会の流れに則ってたら出会えなかったと思う。人づてに偶然出会えたものだから。そういう部分を大事にしてるっていうのは、信用できると、思う。
―EKDさんは赤い疑惑を初めて聴いたとき、どんな印象を持ったんですか?
E:うーん、衝撃でしたね。演奏も上手だし、曲の構成も上手だし。凄いなあと。脱帽でした。歌詞も凄いなあって…ものすごく身に覚えのあることを歌ってる、俺にとって(笑)。だからすっと入っていけました。
―ほんとに赤い疑惑の歌詞は…身に覚えがありすぎて、聴いてるとはっとさせられます。かなりきわどいところまで言ってますよね。さっきも弱音を出したいっておっしゃってたけど、聴いてるとすごい共感する、わかるなあって思います。
長:そうですか。
―あの、ずっと気になってたんですけど、赤い疑惑は曲の中で、正社員とフリーターの間をふらふらと行ったり来たりしてますよね。迷いながら。「就職すべきだ」とか「すべきじゃない」とか言わないで、「どっちがいいんだろう?」って迷ってる。それがおもしろいなあと思って。皆さんはそこらへんのことをどういうふうに考えているんですか?たとえば、大学卒業するとき、就職しようって思わなかったんですか?
長:俺はもう就職したくなかったですね。中学、高校、大学、就職、っていう流れになんとなく乗るのがすごくいやで。そういうのに疑問を持ってたんですね。俺らが学生だったときって、「個性を伸ばしなさい」とか「好きなことをやりなさい」とか、社会は子供たちを自由にのびのび成長させようとしていて、で、俺はそういう風潮に対して「ああ、じゃあそうしよう」と思って育ってきたんですね。でも、いざ大学卒業するぞってなって周りの連中見渡すと、「そんなこと言ってもやっぱ就職っしょ」っていうのがみなぎってて。何となくいやだなあって思ってたんです。俺そのころ、日本のオヤジが仕事からくたびれて帰ってくるのを見るのもすげえいやで。肉体的にというよりも、精神的に忙しさに疲れてる感じで。で、そんな大学生んとき海外旅行で東南アジアまわったんです。すげえ貧しい、生活環境の悪いとこだったんですけど。でも、何かそこに暮らしている人たちが、生き生きして見えて。なんかちゃんと生きてる感じがして。そこで、「何となく就職、ってのはやめよう」と決めましたね。まあでも、それからもずうっと俺は、悩んできたんですけど。
―さっきも言ったけど、ふりきってないですよね。赤い疑惑。俺たちは弱者やけどこれでいいんや!ていうんじゃなくて、やっぱり会社に勤めて給料もらったほうがいいのかな…て思ってる。
松:俺たちは弱者の味方だ!ていうほど、ぶっちゃけ俺らって弱者じゃないと思うんですよね、飯普通に食えてるし…。まあだから、開き直れなくて悩んでるんだろうな。
沓:でも、世の中の仕組みには疑問を感じることがある。やっぱり、チャンスの得やすい人・そうでない人ってはっきり分かれてるから。
E:うん。それは僕も思いますね。世の中の仕組みに無理があると思う。以前は派遣ってドラマになったりして、注目されてたけど、今はもう派遣切りって言葉ができてるじゃないですか。世の中の都合に合わせてたくさんの人が動かされて。どれだけがんばっても、搾取され続けてしまう人っているし。
長:そういうことなんですよね。世の中の仕組み。70年代にヒッピーブームとかパンクブーム起こって、今でもヒッピーな人たちが「スローライフ」とか言ってるけども、その熱って弱いと思うんですね。だってそういうのがいいってことはわかりきってるし、だけど、そうできないっていうのが今の状況・仕組みで。そういう現状をちゃんと見つめて歌っていきたいなって思う。やり方としてはフォークに近いのかなあ。
―なるほど。
長:大学卒業するときも、就職するのが当たり前だからってんで、何にも考えずに就職するっていうのが嫌だった。世の中の仕組みに何の疑問も持たずに、そこの一員になるのが嫌だったんです。これまでずうっとエスカレーター式で生きてきて、これからもそうなのかって思うと嫌んなって。もっと自分の頭で考えたいし、おかしいと思うことはおかしいって言いたいし、自分のいいと思うやり方で生きていきたいし。まあだから、すごく悩んだり迷ったりしてるんですけど。
―そうですね。それが歌に表れてますよね。あのーちょっと訊きたいんですけど、音楽を続けようとしたら、正社員であるのとフリーターであるのって、どっちがやりやすいんですか?
松:職種によると思いますけど、時間に融通がききやすいのはフリーターじゃないすかね。でも、やっぱり拘束時間が長いとことかあるし。そうなると給料も安いから、正社員の方がいいんじゃないかって思うし。
沓:一概には言えないです。すごくきつい仕事とか、常に欠員の出ているところとかだと、バイトにばっかり時間くっちゃって、音楽ができないってなってしまう。
―そうですよね。一方就職したらしたで、なかなか休みとれないし、責任やしがらみが生まれてきますしね。皆さんは今はどこかに勤めてらっしゃるんですか?
長:実は俺は今、とある音楽レーベルの正社員なんです。給料は安いんですけど、すごく音楽の勉強になってます。…意味とか意義を見出さないで、何となく就職するのが嫌だったんですけど、今の仕事は俺にとって意味があると思う。生活のためにしかたねえなあって働くんじゃなくて、やっぱり自分にとっていいふうに仕事していきたいし。音楽やっていきたいし。
松:俺も最近、友達んとこの編プロに就職しました。俺がバンドやってるってことも承知の上で誘ってくれたから、すげえありがたいっすね。
沓:俺はバイトです。日雇いの。
E:僕も、バイトです。郵便配達。
―そうですか。やっぱりそこらへん、難しいですよね。好きなことは続けていきたい。でも、稼いでご飯食べていかなきゃいけないし。それが一致するのがいちばんいいんだと思いますけど。
長:そうですね。…ああ、でも日本人って、必要とするお金の額の設定が高いと思う。これは東南アジアまわって思ったことなんですけど。本当はそんなに多くのお金を持ってなくても楽しく生きていけるはずなのに、より多くのお金を求めて、後戻りできない状態にあると思うんですよね。一度生活水準上げてしまうと簡単には下ろせないじゃないですか。あれも欲しい、これも欲しいって思うようになって、お金に支配されてるような気がするんすよ。
―はい。
長:だけど、お金よりも大事なものって本当にあるから。家族や友達や恋人や。その人たちや、その人たちと過ごす時間を大事にすることを、忘れちゃいけないと思うし、俺は大事にしていきたい。特にお袋が死んでから、すげえ、そう思いましたね。それは俺の音楽にも、すげえ影響出てると思う。
―そうですね。ほんとにそう思ってるんだってことが聴いててわかる音楽です。だから、真剣に聴いてしまうし、すごいぐさっときます。だからこのイベントに赤い疑惑に来てほしいって思いました。それで幸運なことにもEKDさんも来てもらえることになって。すごくよかったなあって思います。当日を楽しみにしてますね。それじゃあ最後に京都の皆さんに何かメッセージを…。
長:えっ。メッセージ…。
松:メッセージって…何言おう。
全員:…。(とても悩んでいる)
―いやまあ、ざっくりでいいので。
長:いやいや。ちゃんと言わなきゃな…。
―(笑)
E:僕の曲の中に、京都の民謡を取り入れたものもあるんですね。だから、その地で演奏できること、楽しみにしています。よろしくお願いします。
―こちらこそよろしくお願いします。
松:他ではやってないことをやってるので、ぜひ楽しんでってください。
沓:構えずに、もう好きなように楽しんでもらえれば。
長:そうですね。他にはないパーティーになると思うので、俺も楽しみにしています。
―長い時間、ありがとうございました!
↓これ、インタビュアーの警戒してる河原でチャカポコ系?!
京都のイベント『萌芽』のスタッフによるインタビュー。
面白い内容なので、すげえ長いけど主催者の了承を得てここに全文掲載。
最後はEKDとのセッション映像をお楽しみにください。
インタビュー 前編 中編 後編 映像
アクセル長尾(以下・長):今日はどんな感じなんでしょうか?
―京都の人々に、赤い疑惑とEKDのことをもっとよく知ってもらおう、みたいな感じです。
長:なるほど。
―たぶん話があっちゃこっちゃ飛ぶと思うのですが、いろんなことお話できたらと思います。よろしくお願いします。
赤い疑惑・EKD:よろしくお願いします。
―それではまず、自己紹介を。赤い疑惑、ギターボーカルの…
アクセル長尾(以下・長):あ、はい。アクセル長尾です。
―下のお名前は…
長:えと、玄武です。玄武と書いて、はるたけ。
―あ、だからげんちゃんって呼ばれてるんですか。かっこいいお名前ですね。
長:親父がつけたんです。
―国語の教師の…
長:あ、はい(笑)。よくご存知で。
―ええと、では、お隣に座ってらっしゃるベースの…
松田クラッチ(以下・松):松田クラッチです。
―下のお名前は…
松:健志です。健康の健に、志村けんの志で…
―たけしさん。
長:多いよね。たぶん。松田健志って。
松:グーグルで調べてみたけどそんなに多くなかったよ。
―あ、ググったんですね。
松:はい。…(笑)いや、最初は松田太郎になる予定だったんですけど…母親の強い意向で健志に。
―はは。強い意向。松田太郎もいいお名前ですけども。ええと、ではドラムの…
沓沢ブレーキー(以下・沓):ドラムの沓沢ブレーキーです。
―沓沢さん。
沓:沓沢亮です。なべぶたの亮。
長:こいつ、自分の名前気に入ってるんです。アルファベットで書いたらちょっとかっこいいとか言って。
沓:いや、あ、はい(笑)。でもあだながつけられづらくて、ちょっと困りました。
―ははは。…では最後に…
EKD(以下・E):EKDです。
―池田さん。
E:あ、はい。池田です(笑)。
―やっぱり池田さんだからEKDなんでしょうか。
E:はい。
―池田さんは下の名前は…。
E:大樹です。大きな樹木で…。
―よくECDと間違えられませんか。
E:いや、間違われはしないですけど…(笑)。
―うちのスタッフでEKDのレビューを書いた者が、初めECDやと思って音源聴いてたらしいんですね。しばらくして、「なんかちがう」と気づいて、「あ!EKDや」とびっくりしたらしいです。
長:「埼玉のラッパー」って映画に、TKDっていう人物が出てた。タケダさんなんだけど。
沓:友達にTKCっていうのがいる。たけしで。
―いろいろいるんですねえ。
E:みたいですねえ。
―ではあの、赤い疑惑の結成時の話から、と思うのですが。元々は長尾さんと松田さんがバンド組んでらっしゃったんですよね。
長:はい、GUTSPOSE(ガッツポウズ)というバンドを高校からや大学在学中ずうっとやってて、卒業と共に解散しました。
―長尾さんと松田さんと…。
長:あと二人。その二人が、就職組だったんで。俺はそれが許せなかったから…。
―許せなかったんですか(笑)。
長:辞めろ、と。
―就職を?
長:バンドを。何か、続けられるんなら続けるとか言ってたから。
松:いや、でも今聞くと、辞めるつもりだったらしいよ。バンド。
長:あ、そうなの。
―はは。
長:で、松ちゃんは、こうするとかこうしないとか、元々決めない人だったから、そのまま(笑)。
松:はい。元々はボーカルだったんですよ。メインの。
―へー、そうだったんですか。
松:歌詞を持たないボーカルでした。決まったフレーズは曲にそれぞれ2、3個だけで。
―あとはアドリブだったんですか。
松:フリースタイルです(笑)。
長:最初はハードコアを目指してたんです。ハードコアって、こうじゃーじゃーじゃーってコードがあって、そこに叫びを乗せる形だから、そのころはそんな、メロディをどうこうって感じじゃなかったですね。
―そのときからライブは頻繁にされてたんですか。
長:いや月に1回くらいのもんで。Less than TVってレーベルがあって、俺が当時そこに金魚のふんみたいにひっついて回ってたんですけど、そこでまあいろいろアピールしてたら、そのうちイベントに呼ばれるようになって。そっから結構ライブやるようになったな。
―なるほど。
長:で、まあGUTSPOSEを解散させて、松ちゃんにどうするよって訊いたら、「バンドやるよ」って言うんで、続けることにして。でもボーカルやりたくないっつうから。
―あ、やりたくなかったんですか(笑)。
長:GUTSPOSEやってるころから、もうボーカル辞めたいって言ってた(笑)。
松:なんかもう、自分をがーっと出すっていうのが、あんまり好きじゃないってことに気づいちゃったんですよね…。いや、けっこう前から気づいてはいたんですけど(笑)。
長:真ん中に立ってんのに、いつも斜め向いて歌ってるんです。
松:顔見せないようにしてるんです。背中を見せて。
長:背中で語るスタイルで。
―(笑)いつからベースされてるんですか?
松:ええっと…GUTSPOSE辞めてからです。
―え、あ、そうなんですか?
長:そういう「やっちゃえやっちゃえ」みたいなのを大事にしてたんです。パンクだから(笑)。
―沓沢さんも確か、ドラムはやったことなかったんですよね?
沓:そうです。楽器ほとんどやったことなかった。エレクトーンくらい(笑)。
長:沓沢の前に、松ちゃんがベースやりたいって言ってたから、ベースは決まってて。で俺ギターだし、ドラム探さねえとなってことで探して。沓沢の前に2、3人ドラムで入ったんですけど、まあ、いろいろあって…辞めて…。
―ほお。
長:あれは沓沢が大学6年生のときか?よくいるじゃないですか。大学長くいすぎてよくわかんなくなってる人。あれだったんです、沓沢が。時間だけはかなりある奴。
沓:暇だけはありました。
長:俺はもうバイトして働いてて、松ちゃんは5年生だったけか。そんな中、夜な夜な俺んちに集まって、なんやかやしてるときに、彼(沓沢)もよく来てたんで、「やってよ」と。「ドラムを」(笑)。
沓:ずっと断り続けてたんですけど。「俺ベースがやりたい」って…。
―(笑)ベースやりたいって言ってんのに。
沓:ドラムになっちゃいましたねえ。
長:俺らそのころレゲエ聴き始めたころだったんですけど、レゲエってベースライン重要じゃないですか。その影響もあったんじゃない?ベースやりたいってたのは。
沓:いや、つうか、俺初心者だし。ベースだったら何か、できんじゃねえかなって。いきなりドラムって言われても難しそうじゃん。
長:でもまあ、スタジオで無理やりやらせたら、わりと叩けて。その前のドラマーに比べれば驚異的な上達っぷりでしたね。それでドラムに。
一旦TOPに戻る
―さっき言ってましたけど、ずっとやってたハードコアから今の赤い疑惑になったのは、どういう変化だったんですか。
長:ええと…自分は、次バンドやるときは、歌がねえとなあって思ってて。ちゃんと日本語の歌詞の。でも松ちゃんはもう歌えないし(笑)。で、俺がボーカルやるわって言って。はじめほんと自信なかったんですね。まあだけど、躊躇しつつも試行錯誤を重ねていって、練習しましたね。沓沢にだめ出しされながら(笑)。
沓:そうだね。だめ出ししたねえ。
長:ボーカルスクールにも通ってたんですよ、3ヶ月くらい、発声の練習とかもして。
―へえー。
長:で、ボーカルやりながら曲作りもしてたんですけど。俺が大学卒業したくらいのとき、いわゆるオルタナティブロックとかパンク、ハードコアって、飽和状態にあった感じなんですね。音楽ってこれだけなのかなあって思ってて。レコード屋に行けばヒップホップとか…何かいろいろあるじゃないですか、音楽の種類が。俺は音楽好きでいたかったから、いろいろ聴いて嗜まなくちゃなあっていうのがあったんですね。たとえばYOUR SONG IS GOODが、いわゆるパンク組から脱け出していろんな音楽取り入れだしたときは、うおーって思って、俺もいろいろ聴こうと。それから野心的にいろいろ聴き始めて、自分のバンドでもなんかひねりを入れていきたいなあって思ってました。…あと歌詞も考えたなあ。80年代のジャパコア…INUとか…すげえ言葉に力があって、人を動かせるようなバンドになりたいってずっと思ってた。日本語が好きだから。
―松田さんはそういう方向性の変化に反対しなかったんですか?
松:いや、方向性をあえて変えたって言うよりは…こうやって皆で会ってるときに、聴いてた音楽がパンク・ハードコアからレゲエ・ヒップホップに変わっていって、こういうのかっこいいねって言うようになって。自然に変わっていったんですよね、嗜好が。
長:ずっと同じ音楽を聴いていたから。不思議なくらい、ずれがなくて。
松:そういう意識が芽生え始めたのが、「東京サバンナ」あたりだよね。でもまだハードコア感が残ってて…。
長:うん。やり方がわかんなかったんですよ(笑)。ギターとベースとドラムで、すてすてすてーっとやることしかやってなかったから。どうやったらこんな感じの音楽になるのかなあって、わかんなかった。でも多分一番大きく変わったのは、「フリーターブリーダー」でラップをやろうと思ったとき。友達でヒップホップにどっぷり浸かってる奴がいて、彼はすげえシャイな奴なんだけど、俺らの前ではラップをよくやってて。それ見て感動して、影響受けた感じですねえ。
松:彼、電話かけてきて、いきなりラップを始めたりとかするんですよ。あと玄ちゃん家にいるときに、突然面と向かって1対1でラップを聴かされたり(笑)。そういうスパルタ教育を受けていたので、なんとなくヒップホップに流されたというか…。
―へえ。
松:で、ある日、大阪ツアーに行く前に、玄ちゃんがバイクで事故って骨折しちゃったんですよ。環七で居眠り運転しちゃって。
―ひえー。寝ちゃったんですか。
長:停まってる車にぶつかっちゃったんです。それで練習に行ったんですけど、何かぴちゃぴちゃいってるんですよね、脚が(笑)。病院行った方がいいよってんで行ってみたら、内出血が起こってて、血が全部下に溜まってぶよぶよになってて。ぱんぱんに腫れてましたねえ。壊死するとこでしたよとかって言われて。
松:それで入院したんですけど、お見舞いに行ったら、玄ちゃんが「フリーターブリーダー」の歌詞を書いてて。「おー今度ラップやるから」とか言ってて(笑)。で、見たら俺のパートも全部できあがってた(笑)。フリーター側の意見と、彼を諭す側の意見が、うまいこと描かれてるし、「うんわかった」って。
長:ラップってある意味ダジャレじゃないですか。俺の親父がダジャレ好きなんです。で、幸か不幸か、俺のお袋もダジャレ好きなんです。だから、俺も韻踏めるかなあって。
―筋金入りですね(笑)。
松:あともうひとつの転機はカヨちゃんだよね。
長:あー…別れた俺の彼女なんですけど(笑)。よくだめ出しされてたんです、彼女に。暗いとか。あがれないとか。
松:踊れないとか。全体的にだめだしされてましたね。
長:されてたねえ。「よーしそんなに言うならあがるような、ハッピーなのもつくってやるぜ」と思ったりもしたけど。…まあでもずっと俺が思ってたのは、弱音をぶつけることをやりたいってことだったんです。二十歳すぎると、男って社会に対する文句とか、生きてく上で滲み出てきてしまう弱音とか、そういうのを表に出すのはだめなことだって、普通思われるじゃないですか。だけど俺は、「そうは言っても本当はみんなこう思ってるんじゃないの?」って言いたかった。でもそれってリスキーだし、「そんなこと歌ってもしょうがないじゃん」って思われることもあると思うんですけど、俺はどうしてもそこがやりたくて。みんな言わないけど、腹の中ではこう思ってるんじゃないのって言いたくて。家族のこととか仕事のこととか、ひとりひとり考えてることがあると思うんですけど、普段なかなか表明できないじゃないですか。だから俺は歌いながら、みんなは本当はどう思ってるんだろって、考えてますね。いつも。
―家族のことについて歌うバンドって、今めっちゃいますよね。家族のことを大事にしようみたいな歌。そして売れてますよね。だけど、私はああいうのを聴くと、反発しちゃうというか、うんざりしてまうんですよね。何か道徳の授業みたいで、「そんな簡単なもんじゃないんだよー」と。だけど赤い疑惑の歌はそういうところがないです。素直に「そやなー、家族にもっと感謝せななあ」と思ってしまう。何かもう、聴いてたら電話かけてしまう、おかんに(笑)。さっき言ったようなバンドとどこが違うんやろかって考えたら、長尾さんが今言ったように、腹の中で思ってる本当のこと・弱音・文句、そういうことを歌っているからなんだと思った。この人は本気で言ってるんだなあってわかる。この人は口だけじゃないなあってわかるから、赤い疑惑に素直に感動するんだと思うんですよ。
長:あー、そう言っていただけると、嬉しいです。はい。
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―そんな感じで私たち赤い疑惑大好きで、この萌芽っていうイベントに出てほしいってオファー出したんですけど、そのとき長尾さん、「EKDも是非一緒に!」っていうお返事をくれましたよね。それでめでたくEKDさんもお迎えることになったんですが、赤い疑惑とEKDの出会いって何だったんですか?
長:岩崎(注:萌芽のスタッフではない)君っていう友達が、「EKDっていうかっこいいミュージシャンがいる!」って教えてくれたのがきっかけですねえ。音源渡されて聴いてみたら、めちゃくちゃかっこよくて。なんていうか…反抗的な感じがしたんですよね。すげえ気になって。それで、自分らの音源をすぐに池ちゃんに送りました。
E:あ、でも、俺、その前に一度見てるんですよ、赤い疑惑。俺ユニオンでバイトしてたことがあったんですけど、そのインストアライブに出てた。おもしろいなあって思って観てましたけど。
沓:えっいたの?
E:うん。
―それは奇遇ですねえ。
長:まあそれから交流が始まり。池ちゃんのやるイベントにも顔を出すようになったんです。池ちゃんは“未来世紀メキシコ”ってDJ集団のひとりで、そういうクラブ系のイベントをやってるんですけど、だから、俺らバンドとはちょっとカルチャーが違うんですね。俺、それより前に、友達に誘われてクラブ系イベントに何度か行ったことあるんだけど、あんまりなじめなくて。でも未来世紀メキシコは、ファッションとか洒落でやってるんじゃない感じで、すげえ良かった。ほんと、すばらしいと思って。それで、シーンはちがうけども一緒にイベントやろうと思ったんです。
―EKDさんはどんな音楽を聴いてきたんですか?
E:高校のころは、パンクを聴いてたんですけど、同時にジャマイカの音楽とか、コロンビアの民謡とか、ルーツの音楽が好きでよく聴いてきました。スペインとかメキシコとかアルゼンチンとか、そこらへんでやっているロックラティーノっていうミクスチャーの音楽が、すごいおもしろくて。
長:うん。すごいおもしろいんですよ。俺はワールドミュージックは好きでよく聴いてたんだけど、池ちゃんに教えてもらうまで、そういう音楽知らなかった。たぶん、情報の入り方が俺らとぜんぜん違うんだと思う。
松:タワレコとかユニオンとかじゃないでしょ。
E:うん。
長:かなりラジカルだと思う。そのへんの音楽ってたぶん、日本のバンドシーンではほとんど知られてないんだろうけど、そういうの広げたらおもしろいと思って、赤い疑惑にも反映し始めたんです。
―私たちには本当になじみのない音楽なんですよ。だから、最初EKDの音楽をmyspaceで聴いたときは正直悩みましたね。萌芽に出てもらう京都の他のバンドとブッキングしても大丈夫だろうか?って。実は私、民族音楽をやってる人に対してちょっとした偏見を持ってて。何ていうか、自由だったらいいって思ってるふしがあるんじゃないかなって。だけど音源をちゃんと聴いたら、EKDにはそういう感じ、突然河原でチャカポコしだす感じがしないなあって思いました。これ、うちのスタッフがレビューに、「国民楽的な魅力があって、楽譜に起こしたときにいろんな人が楽しめる音楽だ」って書いてるんですけど。私も音源を聴いてそう思いました。そういう意味で、「きちんと構築された音楽なんだなあ」って思いましたね。なんかうまく言えないですけど…。
E:いや…同じようなこと、言われたことあります。変なことしてるのに、ちゃんとした音楽だ、って(笑)。
―あ、そういうことです。見知らぬ人でも、ちゃんと楽しめる音楽。
長:あと、和の要素も感じる、どこかしら。俺はそういうところがすごく好きで。一昔前にラテンブームが起こったじゃないですか。コーヒールンバとか。俺は池ちゃんのことをギタリストとしてすごく好きなんですけど、池ちゃんのギターにも、そのラテンブームにおける日本の歌謡曲っぽさがにじみ出てる感じがする。
―ああーそうですね。外国の音楽をただ真似たり追っかけてる感じがしない。きちんと自分の色を出してると思う。
長:あと、初めに池ちゃんの音源を聴いたときに、パンクロックバンドのThe Clashの感じを受けたんですよ。何でかわかんないけど、反抗的なメロディを感じ取った。キャッチーでメロディアスなのに、コラージュっぽさもあるし、野心的な感じもした。ただクラブミュージックに影響を受けましたっていうんじゃない。歌詞はないのにアティチュードがしっかりしてる。そのアティティードって何かっていうと、弱者側の視点であったり、アンチグローバリズムであったり…社会の流れに疑問を持ってる。そういうところに惹かれたんだと思います。漠然としてるんだけど、そういう姿勢や考え方を感じ取って、自分と似てるんじゃないかなと思った。それで話してみたらやっぱりそうだったしね。池ちゃんの音楽にも、社会の流れに則ってたら出会えなかったと思う。人づてに偶然出会えたものだから。そういう部分を大事にしてるっていうのは、信用できると、思う。
―EKDさんは赤い疑惑を初めて聴いたとき、どんな印象を持ったんですか?
E:うーん、衝撃でしたね。演奏も上手だし、曲の構成も上手だし。凄いなあと。脱帽でした。歌詞も凄いなあって…ものすごく身に覚えのあることを歌ってる、俺にとって(笑)。だからすっと入っていけました。
―ほんとに赤い疑惑の歌詞は…身に覚えがありすぎて、聴いてるとはっとさせられます。かなりきわどいところまで言ってますよね。さっきも弱音を出したいっておっしゃってたけど、聴いてるとすごい共感する、わかるなあって思います。
長:そうですか。
―あの、ずっと気になってたんですけど、赤い疑惑は曲の中で、正社員とフリーターの間をふらふらと行ったり来たりしてますよね。迷いながら。「就職すべきだ」とか「すべきじゃない」とか言わないで、「どっちがいいんだろう?」って迷ってる。それがおもしろいなあと思って。皆さんはそこらへんのことをどういうふうに考えているんですか?たとえば、大学卒業するとき、就職しようって思わなかったんですか?
長:俺はもう就職したくなかったですね。中学、高校、大学、就職、っていう流れになんとなく乗るのがすごくいやで。そういうのに疑問を持ってたんですね。俺らが学生だったときって、「個性を伸ばしなさい」とか「好きなことをやりなさい」とか、社会は子供たちを自由にのびのび成長させようとしていて、で、俺はそういう風潮に対して「ああ、じゃあそうしよう」と思って育ってきたんですね。でも、いざ大学卒業するぞってなって周りの連中見渡すと、「そんなこと言ってもやっぱ就職っしょ」っていうのがみなぎってて。何となくいやだなあって思ってたんです。俺そのころ、日本のオヤジが仕事からくたびれて帰ってくるのを見るのもすげえいやで。肉体的にというよりも、精神的に忙しさに疲れてる感じで。で、そんな大学生んとき海外旅行で東南アジアまわったんです。すげえ貧しい、生活環境の悪いとこだったんですけど。でも、何かそこに暮らしている人たちが、生き生きして見えて。なんかちゃんと生きてる感じがして。そこで、「何となく就職、ってのはやめよう」と決めましたね。まあでも、それからもずうっと俺は、悩んできたんですけど。
―さっきも言ったけど、ふりきってないですよね。赤い疑惑。俺たちは弱者やけどこれでいいんや!ていうんじゃなくて、やっぱり会社に勤めて給料もらったほうがいいのかな…て思ってる。
松:俺たちは弱者の味方だ!ていうほど、ぶっちゃけ俺らって弱者じゃないと思うんですよね、飯普通に食えてるし…。まあだから、開き直れなくて悩んでるんだろうな。
沓:でも、世の中の仕組みには疑問を感じることがある。やっぱり、チャンスの得やすい人・そうでない人ってはっきり分かれてるから。
E:うん。それは僕も思いますね。世の中の仕組みに無理があると思う。以前は派遣ってドラマになったりして、注目されてたけど、今はもう派遣切りって言葉ができてるじゃないですか。世の中の都合に合わせてたくさんの人が動かされて。どれだけがんばっても、搾取され続けてしまう人っているし。
長:そういうことなんですよね。世の中の仕組み。70年代にヒッピーブームとかパンクブーム起こって、今でもヒッピーな人たちが「スローライフ」とか言ってるけども、その熱って弱いと思うんですね。だってそういうのがいいってことはわかりきってるし、だけど、そうできないっていうのが今の状況・仕組みで。そういう現状をちゃんと見つめて歌っていきたいなって思う。やり方としてはフォークに近いのかなあ。
―なるほど。
長:大学卒業するときも、就職するのが当たり前だからってんで、何にも考えずに就職するっていうのが嫌だった。世の中の仕組みに何の疑問も持たずに、そこの一員になるのが嫌だったんです。これまでずうっとエスカレーター式で生きてきて、これからもそうなのかって思うと嫌んなって。もっと自分の頭で考えたいし、おかしいと思うことはおかしいって言いたいし、自分のいいと思うやり方で生きていきたいし。まあだから、すごく悩んだり迷ったりしてるんですけど。
―そうですね。それが歌に表れてますよね。あのーちょっと訊きたいんですけど、音楽を続けようとしたら、正社員であるのとフリーターであるのって、どっちがやりやすいんですか?
松:職種によると思いますけど、時間に融通がききやすいのはフリーターじゃないすかね。でも、やっぱり拘束時間が長いとことかあるし。そうなると給料も安いから、正社員の方がいいんじゃないかって思うし。
沓:一概には言えないです。すごくきつい仕事とか、常に欠員の出ているところとかだと、バイトにばっかり時間くっちゃって、音楽ができないってなってしまう。
―そうですよね。一方就職したらしたで、なかなか休みとれないし、責任やしがらみが生まれてきますしね。皆さんは今はどこかに勤めてらっしゃるんですか?
長:実は俺は今、とある音楽レーベルの正社員なんです。給料は安いんですけど、すごく音楽の勉強になってます。…意味とか意義を見出さないで、何となく就職するのが嫌だったんですけど、今の仕事は俺にとって意味があると思う。生活のためにしかたねえなあって働くんじゃなくて、やっぱり自分にとっていいふうに仕事していきたいし。音楽やっていきたいし。
松:俺も最近、友達んとこの編プロに就職しました。俺がバンドやってるってことも承知の上で誘ってくれたから、すげえありがたいっすね。
沓:俺はバイトです。日雇いの。
E:僕も、バイトです。郵便配達。
―そうですか。やっぱりそこらへん、難しいですよね。好きなことは続けていきたい。でも、稼いでご飯食べていかなきゃいけないし。それが一致するのがいちばんいいんだと思いますけど。
長:そうですね。…ああ、でも日本人って、必要とするお金の額の設定が高いと思う。これは東南アジアまわって思ったことなんですけど。本当はそんなに多くのお金を持ってなくても楽しく生きていけるはずなのに、より多くのお金を求めて、後戻りできない状態にあると思うんですよね。一度生活水準上げてしまうと簡単には下ろせないじゃないですか。あれも欲しい、これも欲しいって思うようになって、お金に支配されてるような気がするんすよ。
―はい。
長:だけど、お金よりも大事なものって本当にあるから。家族や友達や恋人や。その人たちや、その人たちと過ごす時間を大事にすることを、忘れちゃいけないと思うし、俺は大事にしていきたい。特にお袋が死んでから、すげえ、そう思いましたね。それは俺の音楽にも、すげえ影響出てると思う。
―そうですね。ほんとにそう思ってるんだってことが聴いててわかる音楽です。だから、真剣に聴いてしまうし、すごいぐさっときます。だからこのイベントに赤い疑惑に来てほしいって思いました。それで幸運なことにもEKDさんも来てもらえることになって。すごくよかったなあって思います。当日を楽しみにしてますね。それじゃあ最後に京都の皆さんに何かメッセージを…。
長:えっ。メッセージ…。
松:メッセージって…何言おう。
全員:…。(とても悩んでいる)
―いやまあ、ざっくりでいいので。
長:いやいや。ちゃんと言わなきゃな…。
―(笑)
E:僕の曲の中に、京都の民謡を取り入れたものもあるんですね。だから、その地で演奏できること、楽しみにしています。よろしくお願いします。
―こちらこそよろしくお願いします。
松:他ではやってないことをやってるので、ぜひ楽しんでってください。
沓:構えずに、もう好きなように楽しんでもらえれば。
長:そうですね。他にはないパーティーになると思うので、俺も楽しみにしています。
―長い時間、ありがとうございました!
↓これ、インタビュアーの警戒してる河原でチャカポコ系?!
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