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メキシコ専属ドライバーのシュミレーション

危ない危ない、と言って、横断歩道を歩いている人に気づかないオレに助手席のイケちゃんがオレに注意してくれる。横浜駅相鉄ムービル裏コインパーキングから赤いバンドワゴンとして活躍しているノアが出発。今日はバンドワゴンではなくメキシコDJワゴン。助手席および後部座席にはメキシコが6人乗っている。

メキシコはDJクルーであり、オレはその専属ドライバーという体である。しかし本当にそういう職業だったらオレは喜んでやるのに。メキシコがみんな売れっこDJになってオレは雇われて彼等をいろんなところへ連れて行く。オレはメキシコのみんなのことが好きだからそんな仕事があったら願ったり叶ったり。

しかし現実はとにかくこのクルー(仲間)をそれぞれのねぐらに運んでいくことが目下オレに課されたのである。7人のオトナと、楽器やDJ機器を搭載したノアのアクセルの踏み心地はずっしりとしてそれなりの重みがある。しかしオヤジの自慢すべきトヨタのマイカーはそんな重みもモノともせず、第三京浜をスイスイと走る。夜中のドライブはスイスイ進むから気持ちいがいい。今日のイベントは集客が悪かったけど、内容は素晴らしかった、という爽快な気持ちがオレの中で流れていたので、メキシコと共に帰る東京へのドライブも満ち足りた空気で気分がよかった。BGMはサウンドウェイのフレンチカリビアンのコンピレーションCDだ。

滞りなく世田谷に到着し、チンネン、イケちゃん、サウジ、ミスターという順番でメキシコを送り届け、あとは甲州街道を下って残りの二人を送り届ければいい。降りる順番を考えて最後列に座っていたサトシとアルイを前に呼ぶ。アルイはもう寝息をたてて眠りに就いていたので、サトシが助手席に座る。甲州街道もスイスイと進んでいく。
「長尾くん、レイジって聞いてました?」
「いや、オレ通ってないね。何で?」
「いや、オレもあんまりのめり込んで聞いたりはしてなかったんすけど、この間地元でレイジがメキシコでやった時のビデオをゲットしたんすけど、結構それがヤバくて。しかも日本語字幕付で。」
そこからその中古ビデオが、地元に唯一ある中古レコード屋のワゴンセールで200円という安値だったのに、それでも買うのに相当に店頭で迷った、などという経緯と、それだけ迷った200円の代物が自分にとって非常に価値のあるものだったこと、それからそのビデオでのザックのかっこよさについて等々を熱弁してくれた。

オレもザックがメキシコに力を注いでいたということは知っていたし、メキシコの地元のアーティストとザックが共演した映像を観て、かっこいいなとも思っていたので興味を示すと、「これから観ますか」とサトシが言った。これからウチでそのビデオを観ませんかというお誘いである。そんなことを言ってくれてオレは嬉しいゼ、友よ。トモダチと一緒に音楽を聴いたり映像をみたりするという時間は貴重なモノである。それは年を重ねる毎にレアになっていくことの一つである。しかしもうこんな時間(午前1時過ぎ)だし、明日は普通に仕事でもあるし、しかも何だかさっきから腹が急激に痛んできているようである。オレが躊躇していると「じゃあ、今度貸しますよ」と、淡々とだが、また嬉しいことを言ってくれる。オレは今、少し、(さっきからの腹の痛みのせいで)トイレに行きたいかもしれない、と思っている。

あとこの二人(サトシと既にスヤスヤと眠りに就いたアルイ)を送り届ければ、オレの本日の「未来世紀メキシコ専属ドライバー」の業務は全うされるのである。だから今、ちょっと腹が痛いからといってコンビニかどこか、とにかくトイレ(用足し)のためにここらで寄り道休憩をするのは、面倒であるし、この二人を車内で待たせることにもなるし、そうなるとオレも、ゆっくりした気持ちで用も足せないであろうから、今はとにかくこの二人を調布に送り届け、そしてその後、コンビニかどこかのトイレを借りてゆっくり腹の悶絶を癒してやりたい。

身体をよじって背筋を伸ばしたり縮めたりして腹の痛みが少しでも和らいでくれるような試みを続けながら━━助手席のサトシには腹痛を悟られまいとし(何故なら余計な心配をサトシにかけてしまうであろうから)、何事もないようにサトシとの会話を続けていたが、どうしたことか甲州街道調布方面下り3車線の道路は仙川付近でいきなり渋滞に見舞われてしまった。時刻は午前2時前、夜中だからスイスイ、ばかみたいに走れる時間帯。腹痛は徐々に増大していく。
「何なんすかこんな時間に。しかし、タチの悪い渋滞っすねー。」
と助手席でサトシが嘆いている。オレもまったくその通りだと首肯したが、それよりも何よりもお腹の痛みの方が予断を許さない状態になってきている。体中から嫌な汗さえ出始めてきた。今まで通り会話する自信がなくなってきたので、とりあえず助手席のサトシに迫りくる身体的危機を伝えてみた。
「ちょっとオレ、さっきからなんか、腹が痛いんだよネ」
「えっ(過剰な驚き様と声で)? 実はオレもなんスヨー」
「えっ?? そうなの?」
えっ、大丈夫ですか、というようなサトシの反応を100パーセント信じていたオレにとって、自分もさっきからお腹が痛かったんですよ━━その割にサトシは今までそんな気配を一切みせずにオレと会話していたようだったが━━、というサトシの訴えは非常に意表を突いていてオレは戸惑った。じゃあ、トイレ行きますか、とかそういう類のオレの身を案ずる言葉を期待し、その流れで(二人の同意の元で)コンビニかどこかに寄らせてもらう、という段取りを想定していたオレだったのに。

とにかくその後はオレも堂々と片手をお腹にあてがい、さすりながら運転を続け、渋滞を漸く抜けて旧甲州街道に入ったところで、(下手すると漏らすかもしれない)と腹痛が限界値に触れたので、ちょっとトイレ寄っていいかな、とサトシに了承を得てコンビニ前に停車。もの凄い痛みと格闘しつつ用を足し、少し気分が落ち着いてきたので車に戻る。サトシは携帯をいじりながら待っていた。この人はトイレに行かなくても平気なのだろうか、さっき腹が痛いと言っていたのに。

眠っていたアルイを起こし家の近所で降ろし、そこから2、3分のところでサトシを下ろし、やっと本日の業務がすべて完了した。しかしまだ腹の痛みは沈静しきっておらず、結局そこから武蔵野、西東京地区へと北上する道すがらもう一度コンビニに寄り、さっきよりもゆっくりした気持ちで用を足し、そういえば今日の夕方、普段は相性がよくないので食べないことにしているラーメン(しかも有名なので一度は食べてみたい、と思っていたタイショウケンのパンチのあるラーメン)を食し、その後ずっと膨満感を感じていたことを思い出し、この強烈な腹痛はきっとタイショウケンのラーメンのせいだったのではないか、とかいうことに結論を下した。しかし帰宅後よくよく考えてみると、今回の強烈な腹痛は今日のイベントに、過剰な緊張や精神力を費やしてしまったせい(半分はオレが集めた出演者でもあったことや、ターンテーブルが会場になくてキクチさんとテンぱったことや、集客に貢献できなかったことなど)ではなかいか、とも思い当たるのであった。その日の下痢症状は結局翌26日の夕方まで続いた。
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