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全部つながってたよ

オレは、恋をしているのかもしれない。はっと、そのように、心臓の動きのなんだか激しい我が身を振り返りながら、早足で西武新宿駅脇のマックドナルドを通り過ぎる。スーツを着たサラリーマンやルンペンやいろんなのがいる。いつもここでオレを引き止める「オニイさん、マッサージ」のアジア組のネエさん達もいる。歌舞伎町は2009年師走年の瀬の現在も賑やかである。

マーズに行くと、当たり前のことだけどみんながいた。嬉しい。たった一年前に知り合った人達ばかりなのに、なんだろう、この安心感は。今年は随分一緒に遊ばせてもらったミスターが隣にきた。ミスターは不思議なヤツだ。ミスターの耳元に、ステージの爆音ライブのさなか、「何か恋をしてしまったみたい」と伝えてみると、ミスターはだらしない最上級の笑みを浮かべてオレの耳元で何か返答をしてくれたが、聞こえない。もう一度聞き返すと、「いやっ、イイと思います!」と、わざわざ背筋を伸ばして言ってくれた。そうか、そうだよな、やっぱりオトコとオンナのハナシというのはみんな嫌いではないよな。

ミスターのリアクションでは物足りないので今度はアメちゃんに「どうも恋しちゃったみたい」と伝えると、また彼は彼でいつもの満面の笑みで快く応じてくれる。やっぱりみんなオトコとオンナのハナシは好きなんだ。アメちゃんの次の言葉を待ってたら「いやあ、長尾君、僕は逆に…」と、とても意外なことを言う。アレ、おかしいゾ。アメちゃんが? う~ん。何だか分かったようで分からない。

今度赤い疑惑のイベントに出てもらうフリータンガスのライブが始まる。80sなルックスである。このバンドと一緒に対バンか~、としみじみ数曲聞いて楽しんだ後時計をみるともう23時だ。いけねえ、約束の時間を過ぎている。急いで表に出て電話をかける。先日、約10年振りに連絡があった実家のマンションの幼なじみであるワキと、これから会うのである。「じゃあ、コマ劇の前で」とワキに言われたのでコマ劇の前でしばらく待つ。寒いので身体を伸ばしたり縮めたりする。いろんな人が目の前を通り過ぎるが、オレはワキの風貌を、想像することしかできないから不安である。10年前だって電話で話したくらいだった気がするし、オレは中学生の時のワキしか分からない。すると見慣れた風貌のオトコが向こうから手を振ってやってくる。松田クラッチだ、アレ。

よく見るとその隣にユウジ、他に2人分からないオトコがいる。でもそのうちの1人はよく見ると、どうも幼なじみのワキだ。アレ。松田クラッチがニヤニヤ笑いながら近づいてきて当惑してるオレに「全部つながってたよ」と、運命論者めいた口調で上から目線で言ってきた。いや上から目線というより、酒ですでに上機嫌なようである。とにかくオレが今不思議に思っている、松田クラッチとオレの幼なじみワキとの同居という、確率的にはほぼあり得ない邂逅が、世間は狭いネ的な、何か運命のいたずらのようなものでもたらされた当然の結果だ、というようなことをその松田クラッチの「全部つながってたよ」というパンチラインは物語っているらしかった。

ともあれ、オレはワキとの再会を握手で喜びあい、そしてもう1人隣にいた、オレが知らない、と思っていたオトコが、オーちゃん、といって、オレは前に何度か会ったことのある人物だったことを知った。4人は何らかの神のいたずらめいた縁で繋がっていて、今日、ここでオレと会う前まで一緒に飲んでいたようだ。だからもう既に4人ともホロ酔い加減で上機嫌なのかもしれなかった。ワキと2人ならどっか喫茶店でも入ろうかと思ってたが、すでに上機嫌な4人だから丁度いい、マーズに戻ってもう一杯という感じなった。

マーズに戻り爆音の中でワキといろいろ話したが、ワキの声はこういう場所では通りづらいのか、あまり聞こえないので何回も聞き返す。ワキも一生懸命話そうとするのでワキの唾がいっぱい飛んでくる。どうやら仕事で映像をやっているが会社の仕事はつまらないので赤い疑惑を被写体に何かいろいろ撮らせてほしい、ということだった。ふ~む、そうか。人生は面白い。オレは昔ワキからいろんな音楽を教えてもらって、かなり彼に対してリスペクトの念を抱いていたのだが、そんな彼が今こうしてオレの活動に眼をつけてくれたのだから。それにしても赤い疑惑は最近、映像を撮ってくれる人に恵まれている。嬉しいが、実際のところどうしたらいいのか、オレにもよく分からない。みんなで協力していいモノができるならそれにこしたことはない。みんなで協力して楽しいことができればそれでいいのだ。

「次に出るEKDってトモダチのバンドなんだけど、超かっこいいから」といってワキをダンスフロアーに連れて行く。ユウジが「玄ちゃん、サイコウだね」と満足げに、酒と音楽に酔いしれている。イチコさんが小学生くらいの女の子と手を取り合って踊っている。オレとクラッチがそれに加わる。楽しい。こういう場所に東京で出会えたことが嬉しくてしょうがない。人生とは何なのであろうか。オーちゃんも楽しそうにしている。幼なじみのワキも。もしこういうパーティーが10年くらい継続して行なわれていたらすごいことになるかもしれない。人生は何が起こるかまったくわからないのだ。そんなことを考えているとEKDのライブが始まった。

終電を逃しそうになりバタバタとライブハウスを後にして西武線に飛び乗る。中央線の駅に自転車を置いてきたので本当は中央線がよかったのだが、中央線の終電は終わってたのでやむを得ず西武線に乗り込んだというわけだ。最寄りの駅は田無だから西武線で一度帰宅して、車で中央線の駅まで自転車を取りに行けばいいのだ、いざとなれば。オレのチャリは小さいから我が家のノアで簡単に運べちゃうのだ。そうすれば明朝の出勤に差し障りはない。

よし、そうしよう、と考えて電車に揺られていたら、CDウォークマンを持ち運んでいるショルダーバックがないことに気づき、ジリジリと焦り出した。う~ん、ライブハウスに忘れたのか、いや、あそこであのショルダーを置いた記憶がないゾ、そうすると会社だろうか、うん、会社に違いない。オレの身体は明らかに疲れていたが車で自転車を取りに行くついでに会社まで行っちゃってショルダーが会社にあることを確認して安心してから寝よう━━そんなことをしなくても明日出勤すれば結果は同じなのであるが、そう決心したらハートがメラメラと燃えてくるようだった。

田無駅に着き、オレは実家までの徒歩で約15分の道のりを、止せばいいのに、ジョギングスタイルで走り出した。時々こんな風に妙なところでテンションが上がる自分がいるということは前々から自覚していたが、今日の無駄なテンション(特にこんな夜中の1時に車で会社まで繰り出して、一時的に紛失中のショルダーバックがそこにあるかを確認しにいくなどという)は、もしかしたらオレが今、恋に陥っているからなのかもしれないゾ。オレはバカなヤロウだゾ。いちこさんがさっき「NO.1バカ!」というメールをくれたことを思い出す。

約1時間後西荻の会社に行ってみるとオレのショルダーバックはなかった。オレのシナリオだとここにショルダーバックがあって、ふう、と胸を撫で下ろして満身の疲労を感じながら帰宅して健やかな睡眠を貪る、という段取りだったが、そんなにうまくはいかないもんだね、ダーティーサーティー。まあ、でもこういう無情な結果も嫌いじゃないんだよ、だってこんなもんだもんな。自分に言い聞かせながら帰途に着く。明方、松田クラッチから「ショルダー預かってます」というメールが来た。何だ、全部つながってたよ。
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