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バンドマン

「元カレがバンドマンだったから…」ともSちゃんは言っていた。Sちゃんの元カレはバンドマンだったらしく、彼がやっていたというインディーズのバンド━━Sちゃんが言うには一度はメジャーに行きかけたのだという━━の存在はオレも知っているバンドだった。知っていると言っても、偶然一度目当てのバンドの対バンかなんかでライブを見たことがあるだけで、非常に気味の悪いバンドだったと記憶しているので、Sちゃんの趣味には不可解なことが多かった。今思うとオレはそういう不可解な部分に興味を抱いていたのかもしれない。

元カレがバンドマンだったことは、すでにSちゃんには軽いトラウマになっているらしく、またバンドマンに告白されて呆れた様子だった。アタシは不幸なオンナだ、と彼女は言っていたが、オレのモンナカの友達に言わせるとそういうオンナは自分を可愛がってほしいような面倒くさいオンナだから気をつけろ、ということだそうだ。オレはSちゃんがそういうタイプの人なのかどうなのか、はっきり言ってよく分からない。よく分からないから恋などしてしまったんだバカ野郎。

バンドマンというのは甲斐性がないことで有名だ。オレが生きてきて味わった感じだと、20代前半までは「夢があっていいね。うらやましい」などと女の子に思われ、むしろ好印象を与えることすらあるけど、20代も後半にさしかかると女の子の視線は明らかに変わって、俄に現実的な視点になるのだ。現実的な、というのはとどのつまりお金があるのか、ないのか、とか将来性があるのか、ないのか、ということなのだ。将来性があるのか、ないのか、というのもバンドマンの場合、今後売れる可能性があるのか、ないのか、ということなのであって、20代後半まで売れなかったようなボンクラが今後商業的な成功を掴めるはずはないので、やっぱりどうあがこうと20代後半のバンドマンはもう女の子にとってはハンディーなのだ。

もし今バンドをやっているオレより若いヤツがこれを読んだら、恐れ怖じ気づくか、ふざけたことをぬかすでねえ知ったようなこと言いやがって、と憤慨されるか、どっちかだろうと思う。しかし、そんなことは後数年すれば分かることなのでオレには最早どうでもいいことには違いないのだ。オレがむしろここで強調したいのは、そんな風にハンディーな存在のバンドマン━━しかも彼女にふられ実家出戻りライフを送っているバンドマンであるところのオレことアクセル長尾は、甲斐性のなさを己で実感しながらも、30歳を越えてなお非常に充実したマイライフを送っている、ということなんだろう。

仕事帰りに西荻の、いつも赤い疑惑で練習に使っているスタジオに、MTRを持ち込んでラップの録音をやってきた。計画的犯行で、そんなことをオレは普段からやっている訳ではなく、今日こそはそれをやるぞ、という意気込みのもとだったのだ。トモダチのモンナカがオレにトラックを提供してくれたので、それに乗せるラップを録音したのだ。トラックをもらったのは2、3ヶ月くらい前のことで、一度モンナカ宅で実験的に録ったんだけどそれがあまりよくなかったので、それっきりほったらかしにしていたのだった。だけど、ほったらかすのが苦手なオレは、あのラップどうしよ、ということを以来ずっと頭の片隅で引きずってしまい、畜生このままじゃ悔しいな、とポツポツ思うようになり、遂に昨日一部リリックを書き直し、しかも今度は大声を出せる環境で、ということでスタジオで録り直したら、これが前回とは見違えるほどよくなったので、すっかり気分をよくして帰宅したのだった。次はこのMTRをモンナカに渡せば曲をまとめてカタチにしてくれるはずだから、今から楽しみなんだよな。
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