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ありがたや、ありがたや

この間久しぶりに通信販売の注文があった。前回がいつだったか赤い疑惑基金の通帳を見ないと思い出せないくらい久しぶりの注文だったから、そのメールが来たときは心がトキメクのを隠し切れなかった。

ところでその注文の内容がヤバかった。赤い疑惑のCD全種類とTシャツ4枚という豪華なモノで、オレは殊更、何故Tシャツが4枚なのかが不思議だった。嬉しいことには変わりがないが不思議なものは不思議だ。

ともあれ早急に感謝の返信メールを出し、商品の発送も事なきを得た。お客さんは広島の人だった。赤い疑惑は岡山より西は、松山で一度やったきりで広島ではライブをやったことがないので、これまた不思議なもんだが、なんでもかんでも不思議がっていたらIT社会は乗り切れないのだ。

不思議といえば、北海道に赤い疑惑ファンのちるよさんという人がいて、オレはちるよさんとはメールのやりとりなんかをしたりしている仲なんだけど、何でそんな仲になったのかというと、こっちゃいさん、という人をまず説明しなくてはならない。

こっちゃいさんは東京ライブハウスシーンの裏バン的な存在の人で、本当にそうなのかオレは知らないけど、東京のライブハウスでの出没率はかなり高い方で、いつからかこっちゃいさんは赤い疑惑を気に入ってくださったらしく、以来、ここぞというライブの時はよく観に来てくれている。

松田クラッチが聞いた噂によると「こっちゃいさんに認められたバンドは必ず売れる」のだそうだ。だとすると赤い疑惑も必ず売れる、ということになる訳だが、やはりその噂は都市伝説的な、こっちゃいさんの真意を逆に蹂躙しかねない、根も葉もないことであるとも思えるのだ。

そんなことはさておき、不思議なちるよさんというのは、そのライブハウス界の生きる伝説と噂されているこっちゃいさんのお友達なのだそうだ。こっちゃいさんは、ちるよさんに赤い疑惑というバンドの存在を教えたらしく、それでちるよさんからメールで通販の注文がきたのだ。

ちるよさんとは商品のやりとりが済んだ後も、どういう神のいたずらが作用するのか、メールでのやりとりだけは何故か続いていて、オレはちるよさんにオススメのCDを送るようになったり、ちるよさんのオススメのCDを送ってもらったりさえするようになっていたのだった。

驚いたのはこの前の誕生日にちるよさんから紺のパーカーが送られてきて、添付の手紙を見るとそれはオレへの誕生日プレゼントなのだった。温かそうで有り難かったが、紺一色で寂しかったのでオレは2種類のワッペンをその紺のパーカーに縫い付けて、遂にそのちるよさんのパーカーはオレの私服になったのだった。

ちなみにそのパーカーはちるよさんが着ていた物だそうだから、お下がりなのだった。お下がりをプレゼントしてくれるなんて、その人は変わっているねえ、と姉貴が言うので(本当に変わっているよなあ)、とオレも思った。だけどそんなちるよさんのセンスはオレは面白いと思っているから問題ないのだが、問題なのはオレの縫い付けたワッペンがペルーの刺繍とアイヌの象形的な模様で、いずれもカラフルだったため、その奇抜さオレは気に入ったけど、世間的にはアバンギャルド過ぎるだろうな、ということだった。

だからそのパーカーは以来、土日祝日限定のオレの私服になったのだ。つまり仕事に着ていくにはオシャレ過ぎた。そんなことをお礼の手紙に書いて、そのワッペンを縫い付けた、つい先日までちるよさんの所有物だった、今ではオレの土日限定の私服になっているパーカーを、オレが実際に着ている写真をその手紙に貼付けて送ったら、ちるよさんは感動して喜んでいた。玄ちゃんは母性本能をくすぐる人だと評論された。

北海道のちるよさんとは、しかしながらいまだに一度も会ったことがないのだからやっぱり不思議なことだ。でもミクシーが不思議なのと同じことだからやっぱりたいしたことじゃない。

ところで広島の彼から先日、商品が届いて、何だかおまけまでいろいろつけてくれてありがとうございました、というような内容の感謝のメールが届いた。それでそのメールを読んだら何でTシャツが4枚なのかが書いてあって、それがまた驚きの内容だったのだ。

広島の彼は実は「自分もバンドをやている」のだそうで、そのバンドは3人編成なんだけど、送ったTシャツの内2枚はそのバンドのメンバーの分なのだそうだ。本人はキャメルとイエローを1枚ずつほしかったのだそうで、合計4枚ということだったようだ。なんだかメンバーが当惑している姿が目に浮かぶようで可笑しい。同時にその初期衝動的な行動にかられた広島の彼には紛れもないバンドマン魂を感じる。

しかしそれにしても赤い疑惑に憧れてバンドをやっている人が広島にいるということはエキサイティングなことだ。以前、仙台にライブで呼ばれたことがあったけど、そのイベントを主催していたバンドも赤い疑惑みたいなバンドを目指す、ということを結成当初に酒を飲みながらメンバーと語り合っていたというのだからびっくりした。

20代後半のバンドマンは甲斐性がなくて有名だと書いたけど、確かにその頃バタバタと同世代のバンドが解散したり離散したりし始めたのは本当のことだった。メンバーにいろいろ「事情」ができてきて、結局バンドに割く時間や労力が伴わなくなっていってしまうらしく、勿論「結婚」とか「彼女」とかそういう要素も多分に影響しているらしい。

だけど赤い疑惑はその時期を乗り切ってしまったので、もうあまり心配する「事情」はないのだ。オレはフラレてしまったし、クラッチは結婚してしまったし、ブレーキーは相変わらずだし。

バンド冥利につきるといえば簡単だけど、実際バンドをやっていることで得ていることはワッペンを縫い付けた紺のパーカー然り、広島で赤い疑惑のTシャツを着てバンド練習に励む彼等然り、いっぱいいっぱいあるのだ。本当にありがたい。ありがたや、ありがたや。
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