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オンダ・バガ

オンダ・バガはアルゼンチンの恐らく同年代の5人組のバンドだ。オレが彼等のことを知ったのは都内某レコードショップ店員から「アルゼンチンの最近のバンドでこんな人達がいるよ」と言われて、実際その売場で彼等のアルバムを聞かせてもらった時だった。

フォーキーなギターのスパニッシュ風なバッキングに枯れた味わいのあるメンバー5人による多重コーラス、そして少しハズれた感じの間抜けなトロンボーンが程よい脱力を誘う。リフレインするメロディーはラテン風ビートルズ(ビートルズに思い入れはないのだが)か、と誇張していえばそれくらい耳馴染みのいい旋律だ。少々癖のあるラテン人特有の声質といい、パンクを通過した世代特有の、初期衝動に由来する「勢いで行け」感といい、世界のレベル・ミュージックシーンのキングことマヌ・チャオの存在を思い出さずにいられなかった。

個人的に気に入ったことと、ワールドミュージックを扱う仕事に携わっていることが後押ししてオレはそのCDを即座にゲット。それからは赤い疑惑のメンバーや未来世紀メキシコのメンバーにオンダ・バガの存在教えて、なるほどいいねー、という共感をもらって、オレはホクホクしていた。

その後妙ないきさつでそのオンダ・バガのCDをオレの働いているアオラ・コーポレーションで国内盤としてリリースする運びとなった。しかも解説をオレ、アクセル長尾が書いて、ということが決まったのだった。

提案をしてくれたのは同僚でDJとしてもキャリアのあるShhhhh君で、彼は、こういうアーティストをワールドミュージックとして日本に紹介するのは意義のあることだし、赤い疑惑のアクセルが紹介するのと固い評論家が紹介するのじゃ訳が違うから、という論旨でオレに提案してくれたのだ。オレも、現在のワールドミュージックシーンというのは世代の上の方々があーだこーだ批評してできあがっている妙なジャンル、という認識があるから、そのワールドミュージックというジャンルをもっと親しみやすいジャンルにできないものかと日々思っていたこともあって、その未踏の責務を受け入れることにしたのだった。

しかし、解説といってもオレは評論家じゃないし、自分でバンドをやっているような人間なので他人の音楽を解説するなんて、なんだかとてもおこがましいことぢゃないかしら、と何度も躊躇したのだった。そこで、特に「解説」にこだわることもあるまい、「解説」じゃなくて「ライナーノーツ」にしたらどうだろう、という考えにいたり、その旨を社長に相談して承認してもらった。ウチの会社は過去にもワールドミュージックシーンではそれまでほとんど眼を向けられていなかった、スペインはバルセロナの若いミクスチャー・シーンを、ZOOT16の渡辺俊美さんをセレクターにしてチョイスしたコンピレーションをリリースするなど、ワールドミュージックの権威的な部分からの回避を意識しているところ(これにはShhhhh君の血と汗の結晶が伺われる)があった。だから社長は、評論家やライターではなくて、売れないミュージシャン赤い疑惑のアクセル長尾がライナーノーツを書くことに、特に抵抗はなかったのかもしれない。それはオレにとって救いだった。

とはいえ、初めての、まあ、言ってみれば長いレビューのような文章を書くにあたって、オレはいろいろの不安を募らせ、その不安を少しでも解消させるために中南米の音楽を聞き漁ったり、中南米の音楽本を読んだり、日本ではあまり出回っていないアルゼンチン映画のDVDなどをインターネットで購入などしながら、迫る〆切までの時間を、焦りの中で、とはいえ、それを意外にも楽しんで過ごした。

その中でも印象的だったのは、オヤジとのコミュニケーションだった。というのも、オヤジは結婚する前からオレが小学生の頃までの十数年間、教師をやりながらギターミュージックという雑誌の編集に携わっていた。クラシックギターの雑誌だった訳だが、当時一世を風靡したフォルクローレ・ブームの影響で、中南米のフォルクローレもその雑誌でもかなり紹介していたらしい。最近になってオヤジが家に眠ってるレコードを捨てるというので、ちょっと待って、と呼びかけておいて、オレはその初めて見るオヤジのレコードをチェックした訳だが、おお、あるは、あるは。クラシックのレコードに紛れて中南米フォルクローレの知られざる日本盤レコードの数々。名前の知らないアーティストからハイメトーレスなど有名どころまでいっぱい出てくる。興奮して見ているオレに対してオヤジは(そんなもんが面白いのか)と驚いていたようだが、それなら、とばかりにそれらのレコードにまつわるエピソードなんかを得意気に話して聞かせてくれたりした。衝撃的だったのはアルゼンチン・フォルクローレの伝説、アタウアルパ・ユパンキの来日公演の際に、オヤジはユパンキにインタビューをした経験があるのだそうだ。オレが中学の時にロックに洗脳されてから、十数年、音楽リスニング行を一通り世界中に巡らせ、三十路過ぎてようやく到達したところである中南米フォルクローレ。その中でも今すごく惹かれている、ユパンキという伝説の人物にオレのオヤジが会ってインタビューをしていた経験があるとは。縁というのは恐ろしい程ドラマチックである。

また、「こういうのもあるぞ」と、オヤジが書棚から出してきた『事典 ラテンアメリカの音楽』(冬樹社)という著書は非常に素晴らしい内容で、これを会社の社長に見せたら「あ~、これね、名著だよ。もう絶版だけど」という反応。しかもしっかり会社にも同じ本がしっかりあったのだから驚く。オレは誘われるべくして中南米音楽に誘われているようぢゃないか。

とはいえ、そういった探せばいくらでも出てくる中南米音楽の膨大な資料やアルゼンチンの歴史/政治史の知識は、非常に面白い内容だとはいえ、カバーしきれる量じゃないし、オンダ・バガのレビューを書くのにその一夜漬けの知識を引用することも無駄に思えた。それより同世代の音楽好きやライターさんとオンダ・バガについて話しているうちに確かめられた共通の認識事項や、主観でオレが思ったことだけを書けばいいのかもしれない、という結論に達したのだった。

そうなって書き出したら目安の3500文字はあっさりオーバーしてすぐに5000文字くらいになってしまって、ちょっと文字が小さくなるけど社長のオーケーも出て無事校了。2、3週間の緊張から解き放たれてほどよい達成感であった。

さて、そのオンダ・バガなんだけど、彼等は実は元々アルゼンチンのオルタナティブなロックシーンにいた複数のバンドのメンバーが集まって出来たオールスター的なバンド。とはいえオールスターバンドにありがちな俗っぽさや、予定調和的な要素とは無縁で、とにかく初期衝動でやっている感じがシンパシーを誘う。しかもエレキでやっていた連中が意図的にアコースティックに持ち替え、剥き出しの唄、しかもそれを全員で合唱するというありそうで、まったくなかったスタイルには憧憬すら覚える。

彼等のmyspaceやホームページでいろいろ調べているうちに、彼等が先述のマヌ・チャオのアルゼンチン公演の前座を務めた、という事実がわかった(マヌ・チャオはアルゼンチンの若者の間でもカリスマ的な人気があるらしい)。彼等と直接メールのやりとりをすることもできたのだが、メンバーは全員マヌ・チャオ好き、だけどアルゼンチン以外の南米(例えばペルーやボリビアなんかの)フォルクローレにもやはり影響を受けているという。そういう事実が分かって、なるほど、初めてマヌ・チャオを聞いた時に感じたいい意味での違和感のルーツは南米フォルクローレでもあり、オンダ・バガのルーツも南米のフォルクローレなんだな、と気付く。

またマヌ・チャオの傑作「クランデスティーノ」のそれぞれの曲間がDJ的編集でブツ切りにならずつながっている、というスタイルが、このオンダ・バガのアルバムの造りにもリンクする気がする。それはバルセロナの怪物バンド、チェ・スダカの傑作3rdアルバムでも同じ手法が使われていたのを、点と線で結んでしまうのはオレのエゴか。だけど、未来世紀メキシコのドックも、オンダ・バガにもチェ・スダカと同じ同世代の空気を感じた、というからその点を線で結んでも文句いうヤツはそんなにいないだろうな。あわよくば、赤い疑惑もその点と線のひとつの点(日本に赤い疑惑あり的な点)になれればいいな、と思う訳であるが、それはオレのこれからの努力次第ぢゃないか。

本気で取り組んだことなのでついつい長くなってしまったけど、オンダ・バガ、素晴らしいバンドなので是非買って、聞いてみてほしい。USオルタナティブ/インディー(特にKレーベル、セバドー/ペイブメントやベック、その他グランジなど)に一度でもハマったことのある方にも強く推薦!

フエルテ・イ・カリエンテ
オンダ・バガのCDをアオラコーポレーションで買うにはこちらへ。




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